南ドイツ一人旅⑧地球2億年の歴史ヴィムセン洞窟
ヴィムセン洞窟 Wimsener Höhle
南ドイツ、シュヴェービッシュ地方。
2017年、シュヴァーベン・ジュラの洞窟群と氷河期芸術が、ユネスコ世界遺産に登録された。
同時にシュヴェービッシュ・アルプは、ユネスコ世界ジオパークの認定を受けた。
ヴィムセンは、エーレンフェルス城の敷地の一部、ヘイゲンの町にある区域。
ヴィムセン洞窟は森に囲まれているので、この辺りにもたくさんのハイキングコースがある。
せっかくなので、辺りをハイキングしてみた。
エーレンフェルス城から、北に向かって歩く。
ハイキングコースには大小の滝、水源となる泉、湧水、そして巨石の一帯があり、見どころ盛りだくさんだ。
ジオパークの総面積は、6200平方キロメートル。
そして、ここがハーゼンバッハの泉。
夏のせいか泉は見る事ができず、草が生えているようにしか見えない。
この周辺の水辺は、その清らかさからGlastal ガラスの谷 と呼ばれている。
写真に撮ると、水面下の岩や水底が写ってしまうので分かりにくいのだが、まるで水がないかのようだ。
水の透明度と清らかさ、綺麗さが伝わらないのがもどかしい。
Lämmersteinという山には、Lämmerfelsen 子羊の岩という巨大な岩がある。
山の高さは718メートル。
そしてこの石灰岩の壁は、高さ61メートル。
泉や湧水、小さな草花を見て、下ばかり気にして歩いていた私の前に、20階建て高層ビルと同じ高さの岩が突然現れて、驚いてしまった。
あまりにも巨大で、思わず見上げてしまう。
一番上には十字架が見える。
洞穴もあちこちにあり、中を覗き込みたくなる。
こちらは熊の洞穴と名付けられている。
いよいよ、ヴィムセン洞窟へ。
ここは、ドイツで唯一ボートで見学できる水中洞窟だ。
レストランが併設されており、水辺に沿ったとても居心地のよい観光地。
ここまでのハイキングは、ちょうど5キロ。
高低差はなく、巨石や木々、泉や川、可愛らしい草花を見ながら歩く道は、とても快適だった。
洞窟の奥にあたる場所も、ハイキングコースが続いていたので、少し足をのばしてみる。
澄んだ川、巨石に囲まれた、美しい景色だ。
ボートの予約時間になったので、洞窟へ戻る。
こちらが、洞窟の全貌。
洞窟の全長1200メートルのうち、見学可能な部分は70メートルほど。
下の写真で分かる通り、私達が見学できるのは、最初のほんの少しの部分だけだ。
これまでに320メートル以上の水中通路がマッピングされ、潜水深度は60メートルにまで達しているそうだ。
そのため、ヴィムセン洞窟はドイツで最も深く探検された水中洞窟として知られている。
1803年、フリードリヒ2世公爵(後のヴュルテンベルク王フリードリヒ1世)がこの洞窟を訪れたことから「フリードリヒ洞窟」とも呼ばれる。
1910年に洞窟の調査が始まり、1961年からのヨッヘン・ハーゼンマイヤーの調査は、洞窟の奥行き400メートル、深さ40メートルに到達したという。
この洞窟は、約2億年前のジュラ紀の海に堆積した石灰岩の中にある。
このシュヴェービッシュ・アルプの山岳地帯は、 かつては海の底だった。
サンゴ礁や、海の生物の死骸などが堆積して生まれる石灰岩。
それは長い時間をかけ、地殻変動によって隆起し、カルスト地形となる。
地下水や地表を流れる雨水によって、更に長い時間をかけて侵食され、石灰岩の割れ目から入り込んだ水は周辺を溶かし、空洞を作る。
そして、空洞を満たしていた水がなくなると、洞窟や鍾乳洞となる。
この洞窟は、約100万年前のものと推定されているそうだ。
ボードで進める70mの空間の先には、宝物庫と呼ばれる場所があり、そこには動物の骨などが、かつての状態のまま残されていたのだという。
この一帯には、他にも数か所の見学可能な洞窟があり、発見された動物の骨などが展示されている洞窟もある。
更には、動物の骨を使った横笛や、ヴィーナス像など、芸術品と呼ばれる物も発見されているそうだ。そちらもいつか是非訪れてみたい。
ボートツアーのチケットは、2週間前から予約可能で、このチケットもアルプカードに含まれていた。
こちらが、ボード乗り場。
10人乗りのボードで、洞窟探検に向かう。
ボートに乗る前には、船頭さんから長い注意喚起があり、それが終わるとボートが動き出す。
洞窟のツアーは10分ほど。
行きは最後尾の席だったが、戻ってくる時は前後が逆になるので、最前列になった。
ボートが回転するスペースは、洞窟内には無いのだ。
洞窟に入ると、ヒンヤリとした冷たい空気に包まれる。
船頭さんは、頭上の岩を手で押さえながら操縦し、ボートはゆっくりと、あちこちの岩にゴツゴツと当たりながら進む。
洞窟内には照明があるが、暗い所も多いので、不思議な世界に迷い込んだ気分だ。
中は非常に狭い場所もあり、座ったままお辞儀をしている姿勢で、ようやく通り抜けられる所もある。
今までにきっと何人もの人が、この洞窟の岩に頭をぶつけた事だろう。
水深は、入り口辺りで5メートル。
ぜひ水を触ってみてと船頭さんがおっしゃったので、みんな一斉に水中に手を入れる。
その温度は、約7度。
とても冷たい。
洞窟の上からは時々、雫のように水が落ちてくる。
この水こそが、この不思議な地形を生み出し、この洞窟を作ったのだと思うと、その力の大きさに畏怖の念が湧いてくる。
生命の源、それは水。
生命は海から生まれ、陸に上がった。
海の底だった大地が、山岳地帯になる。
それらを介しているのが水である事に、改めて気付かさせる。
私は、激しく感動していた。
もっと見ていたいと思わせるほどの迫力、そして神秘的な世界がそこに広がっていた。
水は透き通り、水底がはっきり見える。
私の寿命と、地球の歴史を比較し、その壮大な年月にクラクラする。
断崖絶壁
三角形にも見える小高い山
まるで物差しで横に線を引いたように、真っ直ぐな稜線
私が美しいと感じ、印象に残ったカルスト地形の特徴的な風景。
この洞窟に興味を持ったお陰で、その詳細を事前に読み、ここがかつて海の底だったと知ることができた。
たとえ前知識がなくとも、私はハイキングを楽しみ、お城からの風景にも満足しただろう。
誰かが誰かの土地を支配し、戦争が起き、誰かのお城が築かれ、破壊され、再建される。
しかし、そのずっとずっと前には、ここは海の底だった。
ここがそのまま海の底であり続けたら、争いさえ起きなかったのだろうか。
それぞれのお城を見ながら、私はそんな事をぼんやりと考えていた。
ユネスコ世界ジオパークは、世界に200ヶ所ほどあるそうだ。
その定義は以下の通り。
私はこの洞窟を通して、この地形の歴史を知り、その事が旅全体の楽しみを深めてくれていた。
世界ジオパークに認定された場所を訪れた事は、ほとんどない。
死ぬまでに行きたい場所が、また増えた。
それぞれの土地で、私が何を感じ取る事ができるのか、私はそれを知りたい。
こちらの近郊でハイキングをした日の記録
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