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新しいニックネーム

今年は暖冬で、ほとんど雪が降らなかった。
光熱費高騰の中、暖冬はありがたい。
それでも私は、雪の降る景色がとても好きだ。

雪が降ったある日のこと、私は新しいニックネームをもらった。

*****

私はパートナーの事を、日本語の敬称を付け、『○○さん』と呼んでいる。
そして、パートナーは私のことを『Ditoちゃんさん』と呼ぶ。

友達が私のことを『Ditoちゃん』と呼ぶのを聞いて覚え、それに私から教わった『~~さん』を付け加えたらしい。
それはMt. Fujiyamaのように二重の意味になるから、日本語では少しおかしいと説明した。
しかし、僕が考えた僕だけのDitoのニックネームだから、これで良いんだよ!と返された。
その得意そうな顔が憎めなくて、そのまま受け入れることにした。

*****

ある時、二人で買い物に出かけた時に、遠くから大きな声が聞こえてきた。

『Schatz!こっちに来て!』 

Schatzとは、宝物という意味だ。 
そのような呼び方があるのはもちろん知っていたけれど、私は一度もそのように呼ばれたことはなかった。
自分の事だと思わずに、そのまま買い物を続けていたくらいだ。

宝物。
きちんと意味を考えると、何だか照れ臭くなってしまう。

ドイツ語は、語尾にchenが付くと、小さなもの、可愛らしいものを指す。
赤ずきんちゃんは、Rotkäppchen。
白雪姫は、Schneewittchen。

人物だけでなく、物に対してもchenは使われる。
小さなテーブルは、Tischchen。
小さな鞄は、Täschechen。
小さな木は、Bäumchenという具合だ。

Schatz宝物にもchenが付いて、Schätzchenと呼ばれることもある。

*****

このほかにも、パートナーはたくさんの愛称で、私の事を呼ぶ。
私が眠そうにしていると、Kätzchen (子猫)眠いの?と聞かれる。

そして、嬉しい事があって、飛び上がって喜んでしまった時には、Häschen(子ウサギ)は嬉しそうだねとからかってくる。

私が落ち着きなく何か作業をしていると、Mousie(子ネズミ)。

これは、パートナーに限ったことではなく、ドイツでの愛称は、こんな風に小動物が多い。
子供に対しても、よくこんな風に呼びかけているのを聞く。
こうして小動物が愛称になるのは、何とも可愛らしい。

これは愛称とは少し違うけれど、私が何か忘れ物をすると、Eichhornchen(リス)と呼ばれる。
リスは、たくさんの木の実を森の中に隠すが、どこに隠したか忘れてしまうのだ。
でも、その忘れっぽいリスのお陰で、木の実から芽が息吹き、木が育ち、森が生まれる。
私はそんなリスの忘れっぽいところが好きなのだ、と話した事があった。
それ以来、私が忘れ物をする度に、こう言われてしまう。
あんなお話をするべきではなかったかもしれないが、リスは可愛らしいので、それほど嫌な気持ちにならないのが不思議だ。

最近は、庭でリスを頻繁に見かける。
時々ベランダまでやってくるが、思わず見入ってしまうほど可愛い。
動きが早くて、なかなか写真には残せないが、時々成功する。

私がパートナーをからかったり、ちょっとばかり嫌がらせをすると、これらの愛称はちょっとだけ意地悪なものに変わる。
doofie!!!
doofは馬鹿という意味なのだが、doofieは、おバカさん とでも言えばいいだろうか。
こんな意地悪を言われても、私は決してからかう事を止めない。


ちなみに、パートナーは、自分自身を動物で例えることもある。
私にとって、それほど暑いとは思えない日でも、パートナーは暑さに参ってヘトヘトになり、ぐったりしてしまう。
そして、僕はEisbär (白熊)だから暑さに弱いんだ、と言う。
そんな理由から、夏の間だけはパートナーの事を白熊さんと呼ぶ。

ベルリン動物園の白熊Knutは、大変な人気だったのを思い出す。

あの日は、ちょうど日曜日だった。
朝、目を覚ますと、外は銀世界。
いつもならば、ゆっくりとする週末の朝食だけれど、私はソワソワしてしまった。
そんな私に気付いたパートナーは、今からお散歩に行こうと誘ってくれた。

まだ細かく降り続く雪の中、積もった雪を踏みながら森を散歩していると、目の前を小さな生き物が動いた。
3センチほどの小さなネズミが、地面に開いた小さな穴から出てきて、私達を見つけたせいなのか、すぐに穴に戻ってしまった。

そのあまりの可愛らしさに、私は穴の前にしゃがみ、また出てこないだろうかとしばらく待っていた。
そんな私の様子が、パートナーにとっては面白かったようだ。

Mäuschen (小さなネズミ=私)が、小さな穴の前で、小さなネズミを待っているね、とからかわれた。

Mousieより可愛い響きだねと言ったら、パートナーも気に入ったようで、その日は一日中ずっとその愛称で呼ばれた。

あの日以降、私は新しいニックネームを付けられていない。
私の愛称はいつも、Ditoちゃんさん。

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