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【 ほっこり 】5分でほのぼのできる短編 【 七夕 】【 百合 】

こんにちは。
はれのそらです。
今回は、
・七夕
・ほっこり
・モノローグ多め
・微音声作品的なタッチ
・百合?

で書かせていただきました!

原作 熊右衛門さん(熊右衛門さんの原作を元に、はれのが執筆している共同制作品です)


本編【七夕の終わりに】


届かなかった。
くしゃくしゃにして、夜空に投げた時……チクリと胸の奥で小突く。じわじわと溢した水が床に吸われていくようにいつのまにか泣いている。夢から逃げ出した。そこから気の抜けた安堵と焚火が爆ぜたような、ぱちぱちと未練がくすぶってやがて消火する。切り替えはとうにできていて、言語化も整理もついている。そのはずでも不意に目頭を柔く炙る感傷が続く。そんなような話を、私は幼馴染の未亜(みあ)に話した。

※※※※

目があうと、未亜は昔のように頬を柔らかくて、微笑んだ。
彼女と勤務先で再会。食料品関係の専門商社の仙台支店。駅ビルで誰かしらに遭遇するとは覚悟していたが、職場で再会するのは驚いた。地元の人間とはいずれ出くわすと思っていたが、一番会いたくないのが近所付き合いのある幼馴染だった。ナチュラルメイクで服装もファストファッション主体。丸顔でつぶらな瞳で、子供からの警戒心を抱かせないような緩んだ雰囲気。ややふっくらした体をみて……この子は相変わらず、自然体なんだなとわかった。でも、表面は割り切れてるのかもしれない。自分が美大へ進学したが、思う所があって方向転換した旨をぺらぺら如才なく快活な風で説明した。
未亜は私の癒えてない古傷を触れてこなかった。繊細な朴訥とした感じが心地いい。変化もあった。笑えなかった私が知らないうちに微笑むようになった。蔑ろにした自尊心がゆっくりと回帰していく。反発もあった。話す内容が地元の友達が結婚した、子供を産んだ、家を建てたなど。ごくごく狭い世界のニュースを聞かされて、胸の底がジクジクと逆だつ。
知らない親戚の演奏会を見せられたように、興味のない話題に相槌を打っていく。
でも、知らないうちに変わっていった。未亜と一緒に七夕を過ごそうと、自分から誘う。未亜はあっ、と何かを思い出したようで、変わらないなぁと屈託なく笑う。

米米米米米

七夕当日。今にも雨が降ってしまいそうなどんよりした曇天。
昨今の情勢で自宅で行う事になり、2人して慣れない浴衣で宅飲みをした。今日は私がホストで、彼女をもてなす為、柚子のジュレがのったサーモンのカナッペやローストビーフ、にんにくの効いたアラビアータに挑戦した。昔の自分なら、栄養補給以外の食事は興味もなかったし、誰かに作る経験もきっとやらない。しかし、今こうしてレシピ動画と悪戦苦闘して調理する楽しむ自分がいる。満たされていく。
私達はもぐもぐパクパクと気取らず、食べ……サングリアや柑橘系のシャンディガフを飲み干していく。この前と似た地元の話が出る。お酒のせいか、それはそれで不愉快ではなくなる。
デザートのプリンを食べる前に、短冊を書く事となった。
ベランダの隅に置かれた小さな笹へ飾っていく。グラスを片手にさらさらと願いを短冊に記す。ふふふと笑っている。
『今の幸せが続きますように』
呆れるくらいすんなり受け入れられた。もう、芸術家になる夢は叶わない。でも、今の生き方。静謐なのにどこか親しい凪のような平穏を。好きになっていた。人生は一つしかないけど、道はいくつもある。それだけなのだ。

未亜の書きかけの短冊を盗み見る。
『〇〇(私)のおいしいご飯がたくさん食べられますように。あとそれと……』
とつらつら他の願い事も書いていく。文字の大きさから、たくさんは記入できないのにどうにか盛り込もうと悪戦苦闘している。
ああ、かわいい。
短冊に書いたはずの願いは届いていて掴んでいた。少なくとも、あの子の胃袋はもう離さないつもり。
私も短冊の冒頭に小さく追加した。
『私の好きな人の今の幸せが続きますように』

その時。無警戒でいた自分を悔いた。いつのまにかみあが短冊を覗き込んでいる。

「……あはは。あなたって、やっぱり考え過ぎのまじめさんでかわいいっ」


私の赤面は届いたけれど、胸の高鳴りはまだ始まったばかりだった。

(了)

あとがき

今回のお話、いかがでしたでしょうか?
今回短いながら、
・描写を多めに
・主人公の名前をぼかす(音声作品的な手法)

に挑戦してみました。(毎回新しい挑戦をしているのが共同制作での裏テーマにあたります。)
熊右衛門さんと話して、今後はある程度テーマが統一されてくるかもです。

代表作(実話を元にしてます)


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