晴ノ日々(小説書き)

関西の物書き ペンネーム「晴ノ日々」は低気圧で体調崩すため晴の日々を願って命名 一夏…

晴ノ日々(小説書き)

関西の物書き ペンネーム「晴ノ日々」は低気圧で体調崩すため晴の日々を願って命名 一夏のミステリー【午前2時の双曲線】連載中 水都大阪には大小いくつもの橋を舞台にした短編小説【OSAKA 橋と物語】シリーズを載せていきます

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  • 【長編連載ミステリ】午前2時の双曲線

    舞奈と愛理は双子の姉妹、家庭の事情で別々に過ごす彼女たち。ある日愛理が交通事故に遭い意識不明となる。舞奈は事故の真相を探るべく動き出す。

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プロフィール

名前晴ノ日々 私のこれまで 関西出身在住。子供の頃から物語を考えるのが好きで、小学生の頃は4コマ漫画を描いてはクラスに回していました。中学にはノートでストーリー漫画を描き、高校からは原稿用紙にペンを走らせていました。  やがて、画力のなさに気づき絵を描かなくてもストーリーを作るにはシナリオだと、スクールに通いコンクールに挑戦するも連戦連敗、とある映画祭のショートシナリオコンペで佳作を得るもデビューには繋がりませんでした。  その後は、自主映画の企画やシナリオにいくつか

    • OSAKA 橋と物語 跳ねる指 6/6 at 筑前橋

      6会社付近に到着したことを同僚に伝えるとかずしはLINEで店を指定された。今まで訪れたことのないバルスタイルのイタリアン居酒屋だった。店に入るとすでに同僚の矢崎は席に着いていて、手を振りかずしを手招きした。矢崎の正面の席には見知らぬ女性が掛けていて、かずしに軽く会釈した。連れがいるとは聞いていなかった。 「丸富物産の坂木小実さん」 紹介を受け彼女はまた頭を下げ、お互いに自己紹介を済ませると、矢崎が勝手に追加のビールを注文した。ものの一分で届いたグラスをぶつけ三人で乾杯を終

      • OSAKA 橋と物語 跳ねる指 5/6 at 筑前橋

        5バーよりもピアノが中心となっている店作りだった。店の中央にグランドピアノが鎮座し、壁の一面にバーカウンターと調理スペース、残り三面をテーブル席でピアノを囲っている。川に面した窓にカーテンはなく、夕日が差し中央のピアノを暖かく照らしていた。映画やドラマに登場する夕暮れの音楽室を彷彿とさせる。客席の四割程が埋まっていた。全ての客の前にあるグラスには何らかの飲み物が注がれていた。かずしがカウンターの出入り口に近い端の席に落ち着くと、牧羊犬髪の男がさっとメニューを差し出し、かずしが

        • OSAKA 橋と物語 跳ねる指 4/6 at 筑前橋

          4季節が一つ進む頃、かずしは再び営業先に向かうために筑前橋を歩いていた。彼女は紹介した病院で治療を受けたのだろうか。今もピアノを続けているのだろうか。また橋の向こうから白い日傘がやって来ないだろうかと、どこかで期待しながら橋を渡っていると、あの金属の骨組みが秋の夕日を背景にかずしを見下ろしていた。無機質なのに夕日のおかげか有機物に見え、かずしは感傷的な自分がむず痒かった。 営業先から戻り橋を渡る頃、日はすっかり暮れていた。秋風が気持ちよくかずしの頬を打ち、このまま早々に橋を

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        • 【長編連載ミステリ】午前2時の双曲線
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          OSAKA 橋と物語 跳ねる指 3/6 at 筑前橋

          3翌日、かずしは入手した情報を彼女に伝えたく、昼休みをまだかまだかと待ちつつも、高木の追随をどう交わすかに頭を悩ませた。ついに昼休みとなり食堂に向かうと、昨日と同じ席に彼女がいた。向かいに一人女性社員がいて会話をしながら食事をしていた。かずしは彼女の一つ手前のテーブルに着き、彼女の背中をチラチラと覗っては、不味い弁当を口に運んだ。 遅れて食堂に来た高木はかずしの横に座ると、コンパで知り合ったの女の話を始めた。かずしは機械的に頷き、機械的に弁当を口にし無為に昼休みを消費した。

          OSAKA 橋と物語 跳ねる指 3/6 at 筑前橋

          OSAKA 橋と物語 跳ねる指 2/6 at 筑前橋

          2パイプ椅子が床に擦れる音が食堂に響いた。反射的に音の出所を追い彼女が本から顔を上げた。ちょうど彼女を見ていたかずしはまともに目が合い気まずくて目を反らすした。当の音を発生させた高木が、かずしの隣のパイプ椅子に腰を下ろした。高木は細く長い足をテーブルと椅子との狭い隙間で組み、かずしの顔を見ると嬉しそうに目を細めた。「清楚系でかわいいよなぁ。ドブの花だ」高木は同時に入ったアルバイトで一つ年上だ。初日からかずしに声をかけてきて、なぜか彼はかずしを気に入ったようで、昼休みを一緒に過

          OSAKA 橋と物語 跳ねる指 2/6 at 筑前橋

          OSAKA 橋と物語 跳ねる指 1/6 at 筑前橋

          11かずしが彼女を見かけたのは筑前橋の中程に差し掛かったときだった。橋の北側の営業先に向かう途中、かずしは歩道橋の上で真夏の最上天にいる太陽にじりじりとさらされ、片手にビジネスバッグ、もう片手にお歳暮の缶ジュースが入った紙袋を持ち歩いていた。国立国際美術館の巨大な金属フレームがぎらぎらと真夏の光を反射させ、アートに興味のないかずしは恨めしげに睨みつけていた。 両手を塞がれ拭うことのできない汗をだらだらと垂らし、恨めしくコンクリートの橋を渡っていると、反対側から黒い日傘を指し

          OSAKA 橋と物語 跳ねる指 1/6 at 筑前橋

          OSAKA 橋と物語 長靴とオムライス 4/4 at 淀屋橋

          4 次にあおいが中之島公会堂を訪れたのは、四十歳を回ったときだった。八歳下の従姉妹の結婚式が公会堂で行われ参列するためだ。五月の夏日で強い日差しと紫外線がじりじりとあおいの二の腕を焼いていた。参列者たちが食事会場に移動するため次々とタクシーに乗り込むのを尻目に、あおいは母のトイレ待ちでいらいらとヒールで石畳を打っていた。よたよたと表に出てきた母は近頃、膝の関節が曲がってしまい歩幅が狭く歩行速度が遅くて仕方ない。母の後ろで衣装替えを済ませた新郎新婦が詰まっていた。あおいは母をど

          OSAKA 橋と物語 長靴とオムライス 4/4 at 淀屋橋

          OSAKA 橋と物語 長靴とオムライス 3/4 at 淀屋橋

          3バターと卵が醸す香りが、あおいの鼻をくすぐった。脳が考えることを止め食にシフトし急に空腹を覚えた。青年が真っ白なテーブルクロスの上に真っ白な皿を載せた。絵に描いたように綺麗なオムライスがぽんとあおいの目を釘付けにした。焦げも継ぎ目もない柔らかなたまごの上、中央をトマトケチャップが10センチ幅縦断している。オムライスの片側には今どき見かけないパセリが添えられ、遅れて置かれたコンソメスープは香りを嗅ぐだけで温かかった。 あおいが目を上げると、別れた彼がそこに座っていた。初めて

          OSAKA 橋と物語 長靴とオムライス 3/4 at 淀屋橋

          OSAKA 橋と物語 長靴とオムライス 2/4 at 淀屋橋

          2雨の淀屋橋は煙っていた。雨が淀屋橋を通る御堂筋から湧き上がったかのようだ。あおいは梅田方面へ足を進め橋の中程で、土佐堀川を見下ろした。緩やかな川の流れの上を細かな雨がちりちりと打っている。日が沈む目前の川面は黒の一歩手前まで色を落としていた。あおいは橋を渡り終え市役所と川との間の遊歩道を右へ曲がった。新緑の季節は自ら輝き師走にイルミネーションで着飾られるケヤキ通りを進むとケヤキの葉が雨をしのぎ、傘を打つ雨音が軽くなった。あおいの足取りは重くなった。雨を吸った古いパンプスと傘

          OSAKA 橋と物語 長靴とオムライス 2/4 at 淀屋橋

          OSAKA 橋と物語 長靴とオムライス 1/4 at 淀屋橋

          1 雨滴が二股に別れ窓を伝い落ちる様子を眺めていると、幼い頃のワンシーンが思い出された。あおいは車のバックシートに座り、その流れを目で追っていた。運転席に父、助手席に母が座っている。雨は本降りを過ぎ止み間へと近づいていたが、両親の口論は激しくなっていくばかりだ。あおいは梅雨の始めに母が買ってくれた赤い長靴を脱ぎ、膝を抱えて体を前後に揺すっていた。5歳の小さい体では、すこしも不穏な空気を払えない。信号で車が停まると口論も止まった。薄くなった雨音も車内までは入れず、ふいな沈黙が訪

          OSAKA 橋と物語 長靴とオムライス 1/4 at 淀屋橋