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ベートーヴェンを毎日聴く353(2020年12月18日)

『ベートーヴェン/カノン「そうなければならぬ」WoO196』を聴いた。

このカノンは1826年8月1日に作られたと考えられている。はっきり日付まで特定できるのは、ベートーヴェンの会話帳のその日付に、このカノンに関わる話が載っているからである。

その話とはこのようなものである。
(ベートーヴェン博物館のホームぺージを参考にした)

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ベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第13番 op.130が、1826年3月21日にシュパンツィヒ四重奏団によって初演された。裕福なパトロンでアマチュアのチェリストであるイグナツ・デンプシャーは、この演奏会には出席しなかった。でも、作品が聴けなかったが、彼の私的な集まりにおいて、いつでもより優れた音楽家によって演奏させることができると言っていた。

ベートーヴェンは過去何度もデンプシャーに楽譜の写しを提供していたのだ。だから今回も容易に楽譜を手に入れることができるだろう、ということだ。

そんな風にデンプシャーが言っていた、という話を耳にしたベートーヴェンは、とても腹を立てていた。

その後、思った通り、デンプシャーはベートーヴェンに例の弦楽四重奏曲の楽譜を提供するよう依頼してきた。

でも、今回はそう簡単に渡すものか!とベートーヴェンは考え、50フローリンの借用料を払うように伝えた。

弟子のカール・ホルツがベートーヴェンに代わってデンプシャーにこのことを伝えたところ、デンプシャーは「そうしなければならないのか」とため息交じりに答えたという。

その話を聞いたベートーヴェン。「そうなければならぬ」と笑いながら答えたという。
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このカノンはこのような話から生まれたのである。

ベートーヴェンが怒るのも当然だろう。パトロンとはいえ、自分の作品の楽譜を簡単に入手でき、そして、ベートーヴェンの親友であるシュパンツィヒがリーダーを務め、かつ、ラズモフスキー伯爵お抱えでもある弦楽四重奏団よりもうまく演奏させることができると、デンプシャーは言い放っていたからだ。

Es muss sein.  Ja,Ja.  Heraus mit dem Beutel.
(そうなければならぬ。そうだ、そうだ!鞄をもって出かけよう。)

鞄はきっとお金を入れて持って帰ってくるための鞄だろう。Ja,Ja,Ja,Ja ・・・という頷きが楽しく良いアクセントになっている。

この後、1826年10月、ベートーヴェンは最後の弦楽四重奏曲である第16番 op.135を完成させる。その終楽章にこのカノンの旋律を取り入れ、楽譜にも「Es muss sein」という言葉を書いた。

これはデンプシャーに対する警告のように思うのだ。

実際、ベートーヴェンはお金をもらったのかどうか、わからないのだが、とても気になる。

弦楽四重奏曲第16番の第4楽章はこちら。

croisyによるPixabayからの画像

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