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ベートーヴェンを毎日聴く354-2(2020年12月19日)

『ベートーヴェン/カノン「我々はみな迷う。ただ、迷い方は異なる」WoO198』を聴いた。

この小さなカノンが「ベートーヴェン最後の作品」である。

1826年12月1日、ベートーヴェンはしばらく滞在していたグナイクセンドルフの弟ヨハン邸から、ウィーンに向けて出発する。その距離は約90㎞の道のりである。

しかし、道中で発熱し体調が悪化。急遽途中で1泊し、翌日なんとかウィーンへ到着する。

このカノンは友人で秘書もやっていたカール・ホルツに宛てて書いた手紙の中に含まれていたという。体調が悪い中書かれた内容は、友人であるホルツに会いたい、というものである。

Wir irren allesamt nur jeder irrent anders.
我々はみな迷う。ただ、迷い方は異なる

とても気持ち悪い音程のカノンだ。これはまさにベートーヴェンが悪い体調の中、まるで熱にうなされながら、うわ言の様に話しているように聞こえる。「迷う」という歌詞にぴったりの迷走する音楽である。

「迷う」とは何に迷うのか。もちろん人は人それぞれに違う迷い方をする。この時のベートーヴェンは何を迷っていたのだろうか。

ベートーヴェンは体調が悪化したまま回復することはなかった。

この小さくて気持ち悪いカノンの後、それを跳ね飛ばすような情熱溢れる作品を生みだすことはないまま、1827年3月26日、午後5時45分、生涯を終えたのである。


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