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少子化対策に育児保険ってどうですか?



産後7ヶ月の頃だ。
体調を崩して、お世話になった産婦人科を受診した。

眠れない、泣き声を聞くと動悸がする。そしてついに外に出るのが困難になった。食料品や日用品を買うために何とか外に出てもとにかく動悸がひどくて苦しかった。

はっきりとした原因は分からない。
蓄積した疲労と将来への不安が身体に出たんだと思う。
まだまだ続く夜泣き、慣れない離乳食。そして終わりのない育児。


まず産婦人科は赤ちゃんを産むための科だ。女性のトラブル全般に精通していると掲げていても主なフィールドはやっぱり妊娠&出産だと思う。

産後に体調を崩した経産婦の面倒まで見きれないことを身をもって知った。優しくしてほしいわけじゃなくて、とりあえずは冷たくしないでほしかった。

受付で症状を問診票に書いて待合で待っていると動悸と吐き気がして座っていられなくなった。事務員に伝えて横になれる場所に連れて行ってもらう。

中待合に入るまでには番号で案内される産院だった。ここは番号が表示されるモニターが見えない。あと何人待ちかも分からなかった。

分からないけどとりあえず目を閉じて落ち着こうとした。全然楽にならない。とにかくしんどい。

1時間くらい経った頃に、いきなり放送で名前を呼ばれて診察室へ入るように言われた。

すぐに動けなくてモタついた。外来担当の看護師にまくし立てられるように「なんでここにいるの」と言われて休ませてもらっていたことを話すと「先生待ってるから早くして」と急かされる。事務員はなぜ看護師に伝えてくれていないのだろう。

診察室に入ると出産でお世話になった先生はいなくなっていて、初めて会う先生だった。授乳に影響のない薬を飲んでもらうことになるからじわじわとした効果しか期待できないことをやんわりと伝えられる。

この状態が続くなら授乳をやめたいと伝えるともう少しの期間だから頑張ってと言われる。もう少しってどれくらいか聞いても、先生も「赤ちゃん次第」としか言えない。

「赤ちゃん優先」前提の科なんだから仕方ない。母親は頑張れて当然だから甘えるなと突き放されたような感覚になる。

薬局でじわじわとした影響しかないと言われた漢方薬を受け取り。しばらく悩み考えた。

この状態が続くと日常生活に支障が出る。育児にもいい影響がない。産婦人科を受診しても解決しなさそうだと知った。

もういっそ精神科を受診してしまおうと思った。まだ午前中の受付の時間には間に合う。離乳食期の入り口まで頑張った。もう授乳ができなくなってもいい。

少し考えて精神科に当日予約の電話をした。少し待つかもしれないけどいいですか?と言われたがもうなりふり構っていられない。

病院が開いている日に子どもを夫に預けられる日も少ない。とにかく今日解決の糸口を見つけたかった。

ある意味、産婦人科の受診で背中を押された。
これ以上の「赤ちゃん優先」に耐えられなかった私は母親失格と言われても仕方ない。それでもいい。

笑って育児が出来るように戻るために、授乳を中止してもいい。生涯母乳を飲む人はいない。それに世の中にはミルクがある。

最初から混合でミルクに対する受け入れもよかった。離乳食もよく食べた、食べ物の味が好きな生きる力が強い子だ。

きっと精神科にいけば授乳を中止して服薬して調子を整えるように言われると思った。だからはじめに産婦人科を選んだのに、産婦人科に行けば私の知らないなにか違う手段はないものかと思ったけどなかった。

産後のメンタルケアはいったいどこで担ってくれるのだろう。

精神科にいけば産婦人科に。
産婦人科にいけば精神科に。

結局のところ自分でどうしたいか選んで決めるしかなかった。

自分が選んだ先でどうなるのか分からないまま決めて選ぶことがどれほど困難なことか想像出来るだろうか。


分からないまま自分で決めて選んだという責任を負わされる。将来発達や成長になにか支障があったらあの時に頑張っていればという負い目にもなる。

その時その時ベストな選択肢をするように心がけていても育児は分からないことばかりだ。


精神科で安定剤を処方されて今困っていることを聞いてもらった。とにかく落ち着いて外出出来ないことが困っていた。

眠れないのはもう受け入れていた。出来れば眠れないを改善するできれば相当回復すると先生は言った。

私は睡眠薬よりも静かな環境が欲しいことをそのまま言った。少し騒がしい環境でもリラックスを促す薬を処方してもらうことになった。

これだけでも安心感が違った。
授乳はやめることになってもきちんと育つことを先生から言われ、「色んな事情があってはじめから母乳育児をしない人もいるし、母乳が出ない人もいる」とも言った。

母乳さえ与えていれば100点満点じゃなくて、それ以外の関わりのほうがむしろ重要で、親が安定していることの大切さを懇々と話してくれた。

不安感を軽減する漢方薬をもらって、安定剤ももらう。結局漢方は必要だったのか。じわじわと効いてくるのだろうか。

診察の最後に、安定剤を飲む前に最後の授乳を楽しんだらいい、それでよく頑張ったと自分を休ませることを許してあげたらいいと労ってくれた。

もし赤ちゃんの母乳に対する執着が強い場合でもこの子は適応力があるから大丈夫。

周りに助けてもらって断乳して、今まで頑張ったおっぱいのケアもして身体を整えていこうと思えた。


あとは入院の時にもお世話になった相談員から育児の困ったことは市の保健師の相談窓口に電話相談することをすすめられ電話番号を書いた紙をもらった。

私の不調のことは精神科に話してくれたらいいけど、赤ちゃんのことはさっぱり分からんから適材適所でねと笑っていた。


保健師には時間をかけて話をきいてもらえる。身長体重を測るついでに面談もしてくれる。子育て広場のような大人数の遊び場が苦手ならこうした面談も活用してくれたらいいと言ってくれる。


その後は近しい親戚からもう母乳飲んでないの?と言われるのが責められているようで嫌だった。不必要に知られたくなくてなるべく母乳の話題にならないようにした。

しつこく聞かれた時だけ離乳食が好きすぎたみたいで母乳に見向きもしなくなったと笑っておいたが心苦しかった。本当は私の都合で母乳を終わってしまったのだから。

産婦人科に行ってよかったと思う。行ったけれど私が弱りすぎてて場違いだっただけだ。命の誕生を担う忙しい科で、育児で死にそうな経産婦の面倒なんて見きれない。当たり前の話だ。

産んでからの制度なんてほとんど整っていない。介護保険のように少ない自己負担で使えるヘルパーはないし、家事代行はまだまだ敷居が高い。金銭的に体力がないと無理だ。

産後ドゥーラがいる社会に憧れる。そして唐突な話だが育児保険があってもいいと思う。健全な次世代が育つための保険なら血税が遣われてもよいのでは?とすら思えてくる。次世代が育てばその子たちは納税者になる。

母親を追い込むばかりの社会で子どもは増えない。2人目なんて望めない。子沢山に憧れたがこれ以上は私には無理だ。


少しだけ判断力を残していて良かった。あの時に精神科に治療を求めて服薬を受けたことは間違っていなかった。

赤ちゃんがいるからこそ限界まで頑張ってはいけない。

経験は浅いけれど、子育てにおいて限界まで頑張ることは美徳じゃないと肝に命じた。

今は随分と回復して元気に過ごしている。
周りの人の助けをかりながら。
これからも生きていくと思う。

無印良品のポチ菓子で書く気力を養っています。 お気に入りはブールドネージュです。