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3) 大学生はじめての引っ越しとチャラい不動産(18歳)

私が人生はじめての引っ越しをしたのは18歳。大阪の短期大学進学に伴い、田舎から出てきた時だった。 

実家から大学までは片道約2時間、往復約6000円。
一人暮らしをした方が圧倒的にコスパがいい。

兄達もすでに1人暮らしを始めていたし、我が家にとって「18になったら家を出る」が当たり前だったため、実家を離れる寂しさなど特になかった。

むしろ「自分の空間を誰にも邪魔されないなんて最高すぎる」と小躍りしながらその日を待ちわびていたと思う。

ところでうちの母は過干渉だ。もしかしたら母というのはそれがスタンダードなのかもしれないが、基本的にノックしないでズカズカ部屋に入ってくる。

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「宿題終わったん?」
「はよ寝なさい」
「先お風呂入って。片付かへんから」
「またマンガ読んで…目悪なるで」
「また散らかして…ネズミの巣みたい」
「ココア作ろか?」(珍しく勉強しているときに限る)

とにかくいつもいつも顔を出してくる。
男3人1人部屋で育った今の夫からすれば贅沢な悩みらしいが、当時の私には結構深刻な問題だった。
そういう訳で「私の承諾がない限り立ち入れない空間」を心待ちにしていたのだった。


大学入学まであと1ヶ月というところで私は新居を探しに大阪へ出かけた。母もちょっとおめかしして同行してくれた。

片道2時間かかるのでできれば1日で決めてしまいたい。
私たちは大学の最寄駅に降り立つと、たまたま目についた緑の看板の不動産屋へ突撃した。

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どうでもいいが、賃貸物件を紹介してくれる不動産の方はなぜかチャラい印象が否めない。
私の数少ない経験からでしか言えないが基本的に男性は茶髪である。そしてとても愛想が良い。「ちょっとチャラいけどいいやつ」みたいなオーラが出ている人も若い社員の人も多い。なぜそういう傾向があるのか、理由を知っている人がいれば教えてほしい。


とにかく候補にあがった物件のひとつに築30年、家賃は4万円というのがあった。
大学から徒歩15分、コンビニまで30秒。4階建ての4階、南向きの1K。

物件探しはインスピレーションが大切だ、と私は思う。
何軒か見学すべきだとは思っていたが「ここでええんちゃう?」と心のなかの私がささやいた。

「大通りに近いですし、治安も問題ないですよ!」とスーツの男は推す。
服屋で試着中に「ウワーお似合いですよ!」と言われた時と同じ気分だ。悩んでいる時の適当な押しに私は弱い。

はるばる大阪まで出てきたのに滞在時間はいぜい2時間くらいだったかと思う。
私は早々に契約を終え、意気揚々と帰路についた。面倒なことは時間をかけず済ませてしまいたい。


しかし帰宅して数時間後、1本の電話がなった。
「あのう...ご契約頂いた物件がダブルブッキングになってまして…」
茶髪の彼だった。声が動揺している。

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「契約の早かった先のお客サマを優先する決まりになってまして…同じ建物の2階に空きがありますのがそちらはどうでしょう?間取りは基本的に同じです。北向きですが」

「どうする?もっかい見に行こうか?」電話をとった母は振り返ってそう言った。
「いいよ、めんどくさいし」

間取りが同じなら別に問題ないだろう。
2時間かけて出向くのが面倒な私は事態を全く深刻に捉えなかった。

今思えばあまりに軽率だった。母の言う通りにすべきだった。

続き


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