4)はじめてのひとり暮らしで「○ロスぞ」と叫ばれたときの話(18歳)
はじめての一人暮らしの家は一言でいえば最悪だったかと思う。
これまでの人生で20回近く住まいを変えたが、そのなかでもワースト3に入る住まいだった。
はるばる田舎から出てきて契約を交わしたが、帰宅後ダブルブッキングであったことが判明。
しかしめんどくさがりの私は不動産屋の代替案を素直に受けいれ、同じ建物の2階下の部屋であっさりOKをだしてしまった。
だからまぁ、ちゃんと見に行かなかった私が悪いんだろう。
直感で良いと思った最上階の部屋は窓が3つあり南向きだった。
しかし引っ越し当日に初めて対面した部屋は窓が1つで北向き。
とにかくちゃんと確認しなかった私が悪いんだろう。あのチャラい茶髪のせいじゃない。
私は自分にそう言い聞かせてその部屋を受け入れた。
*
結論からいえばこの家には1年しか住んでいない。
理由は色々あるが、あえてあげれば以下の3点かと思う。
1点目:隣人による殺害予告が多い
「殺すぞコラァ!!」と、3階の住民は23時ごろになるといつも怒りだす。
誰かと電話しているようだが、必ずといっていいほど最後に「コロスゾ」と付け加えるのでよほど相手のことが嫌いなんだろう。私がこれまでの人生でそこまでの殺意を覚えたのはたぶんゴキブリ相手くらいかと思う。
この部屋はリビングに通気口のようなものがあるのだが、天井に設置されているので外気を取り入れているかは不明だった。少なくとも階上の「コロスゾ」はいつもバッチリ取り入れてくれた。
2点目:アラスカ並みの日照時間
先に書いたようにこの部屋は北向きだ。窓は北側にひとつしかないので日中も絶望的に暗い。
いつだったか雑貨屋で丸い缶に入った「サボテン栽培キット」を買ったことがある。
種から育てられるらしく、小さくてかわいいサボテンの写真につられて衝動買いしたのだが、その時はこの部屋の日照時間の短さをすっかり忘れていた。
私なりに心をこめてお世話をしたつもりだった。
しかし数日後、サボテンキットの土から小さな緑の頭を出したきり、サボテンはそのまま徐々に茶色くなって成長をやめた。私はそっとサボテンキットのフタを閉じた。
3点目:上の階の住民によるお経と和田アキコの騒音問題
3階の住民は忙しそうだ。
夏が近づくと「コロスゾ」に加えて日中はお経の声が聞こえ始めた。
本人の声ではなさそうなので趣味で聴いていたのか、もしかしたら彼はお坊さんでお盆に向けて練習していたのかもしれない。
加えてそのお坊さんは和田アキコも好きだった。
特に「あの鐘を鳴らすのはあなた」という曲がお気に入りだったらしい。
あんまり爆音で流し続けるので私も覚えてしまい、18歳の私は一度カラオケでその曲を披露したことがある。
みんな絶妙な反応をしていたが、私はいい曲だと思う。
あとはゴキブリがやたら多いだとか、換気扇の裏を掃除していたらクシャクシャになったカップルの写真が出てくるとか、色々あって1年後に引っ越すことにした。
唯一収穫があったことといえば、ゴキブリ退治の際の手首のスナップの効かせ方が格段に上手くなったことかと思う。
こうして田舎娘は1人でたくましく生活することを覚えていった。
続き
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?