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アフリカで急成長中のデジタルヘルスケアスタートアップ

アフリカでは、急速な都市化と人口増加、そして医療インフラの不足が課題となる一方で、デジタルヘルスケア分野で成長を遂げるスタートアップが増加しています。ここでは、アフリカで注目されているデジタルヘルスケアスタートアップの特徴や、それらが提供するサービス、直面する課題、そして成長の要因について詳しく説明します。


デジタルヘルスケア市場の現状

アフリカ大陸は現在、人口増加とともに医療需要が急激に増えています。しかし、医師や病院の不足、医薬品の供給不足、医療施設の過密化など、医療インフラの未整備が大きな課題となっており、医療サービスの改善にはさまざまな課題が待ち受けています。ここでは、実際に現在のアフリカ諸国のデジタルケアはどのようになっているのか、その背景や課題も含めてお伝えします。

モバイルからのインターネットアクセス数の増加

サハラ以南のアフリカ諸国では、携帯電話からインターネットにアクセスする人数が増加しており、2020年には約3億人(全体の28%)がモバイルからアクセスしています。
この数は2025年には4億7千万人に達し、全体の39%になると予測されています。成長率は年9.3%と高い水準です。
また、スマートフォンの普及率も見逃せません。2020年時点で携帯端末全体の48%がスマートフォンで、2025年には64%に増えると予測されています。
スマホ普及率が高い国はナイジェリア、南アフリカ、ケニアで、2025年にはそれぞれ1億6300万件(ナイジェリア)、8900万件(南アフリカ)、5200万件(ケニア)のスマホ回線が予測されています。
※参照URL:サハラ以南アフリカの携帯電話ユーザー数とスマホ普及率:アフリカで進むデジタル化の今

モバイルデバイスと医療アクセスの現状

多くの地域で医療施設や専門医の不足が深刻であり、遠隔医療やモバイルヘルスの需要が徐々に高まっています。
そのため、テクノロジーを活用して医療サービスを効率化し、アクセスを拡大することがアフリカ諸国での急務となっています。
そこで注目されてきたのが、モバイル技術の普及です。現在のアフリカ諸国では、スマートフォンやインターネットの普及が増えてきました。これにより、デジタルヘルスケアサービスの利用がしやすくなり、以前よりもヘルスケアサービスへアクセスすることが可能になりました。
また、他国からの投資の増加もモバイル技術を駆使した医療アクセスを加速させています。その結果、 国内外の投資家がアフリカのヘルスケア市場に注目し、スタートアップへの資金提供が過去5年間を見ても活発化しています。
※参照URL:Digital health has strong potential to enable universal healthcare access
※参照URL:未来の医療を支える国際協力:開発途上国で進展するデジタルヘルス | ニュース・広報 - JICA


モバイルデバイスを利用した医療サービスの成功例

ここでは実際に、アフリカ諸国で現在活躍しているモバイルデバイスを利用したデジタルヘルスケアの成功例をご紹介していきます。

遠隔医療(テレメディシン)

これらの取り組みは、遠隔医療を通じてアフリカ諸国における医療サービスの質とアクセスの向上に大きく貢献しています。

・Allm AFYA Solutions Ltd.の設立(ケニア)
日本の医療ICT企業である株式会社アルムは、ケニアに現地法人「Allm AFYA Solutions Ltd.」を設立し、医療関係者間のコミュニケーションアプリ「Join」を活用した遠隔医療ネットワークの構築を進めています。

・デジタル超音波診断の活用(ガーナ)
ガーナでは、デジタル超音波診断を用いた遠隔医療が導入され、妊産婦の健康管理や小児の発育観察に役立っています。

・携帯型心電計による遠隔診断(カメルーン)
カメルーンでは、クラウドを利用した携帯型心電計を活用し、心臓の遠隔診断が実施されています。

※参照URL:アフリカの医療問題を改善する遠隔医療ーその期待と課題とは?【Pick-Up! アフリカ Vol. 18:2022年3月22日配信】

電子カルテ

アフリカ諸国における電子カルテ(Electronic Health Records: EHR)の普及は、医療サービスの質向上と効率化に大きく寄与しています。具体的な事例としてザンビアの例を紹介します。

・ZEPRS(Zambia Electronic Perinatal Record System)(ザンビア)
ザンビアでは、妊産婦と新生児のケアを改善する電子カルテシステムとして、電子周産期記録システム(ZEPRS)が導入されました。アラバマ大学バーミンガム校のCenter for Research in Women's Healthとザンビア感染症研究センター(CIDRZ)が、地元の医療専門知識とビル&メリンダ・ゲイツ財団からの資金援助を受けてZEPRSを開発しました。

2011年9月現在、ZEPRSには51万人以上の患者の医療記録が含まれています。ZEPRSは、無料のオープンソースソフトウェアを使用して構築されました。
このシステムは、ルサカの公立産科クリニックと大学教育病院で使用され、患者情報の共有や診療の質向上に貢献しています。
※参照URL:ZEPRS - Wikipedia

医療サービスアプリ

アフリカ諸国では、モバイルデバイスを活用した医療サービスアプリが医療アクセスの向上に大きく関わりを持ち、特に以下のアプリは、モバイルテクノロジーを活用して医療サービスの提供を効率化し、アフリカ諸国における医療アクセスの改善に大きく貢献しています。

・Helium Health(ナイジェリア)
2014年に設立されたHelium Healthは、医師の診察、処方箋、医療費請求を独自のアプリで処理できるサービスを提供しています。
これにより、患者は治療やクリニック、治療薬の選択を行うことが可能となりました。このアプリの特色は、このアプリ1つで完全に自分の健康管理を行うことができることです。

Kangpe(ナイジェリア)
ナイジェリア発のヘルスケアアプリKangpeは、モバイル端末を用いたチャット形式の診療サービスを提供しています。
このアプリは、フェイスブックが新興国で提供する無料のインターネットアクセスサービス「Free Basics」と提携しており、ネット接続なしで利用可能なところも現在急成長している理由です。

Vula Mobile(南アフリカ)
南アフリカの医療従事者向けアプリVula Mobileは、医師不足が深刻な同国で、医療ネットワークの構築に貢献しています。
このアプリは、コミュニティヘルスワーカーが専門的な知識を持つ医師と連携し、患者のケアや治療を行う際に活用されています。
このアプリの特色は、医療従事者に向けたネットワークが充実していることろです。そのため、初めてかかるクリニックや医療サービスでもアプリに登録してあるところならば、患者さんの既往歴や処方箋の種類なども共有できます。また、診断までの時間短縮や誤診の防止に役立っています。

※参照URL:アフリカ医療のデジタルソリューションを担う「Helium health」とは
※参照URL:アフリカで勃興する医療スタートアップ3 アクセス難を解決するチャット診療 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
※参照URL: https://thebridge.jp/2020/10/vula-mobile-app-revolutionising-rural-healthcare-services-pickupnews

注目のデジタルヘルスケアスタートアップ

上記でも挙げていますが、ここでは、特に現在注目されているアフリカ各国で急成長中のデジタルヘルスケアスタートアップをいくつか紹介します。

Helium Health(ナイジェリア)

Helium Healthは、ナイジェリアを拠点とする医療ソリューションプロバイダーであり、アフリカ全土で急速に拡大しているスタートアップです。
このスタートアップは、以下の3つのサービスを骨組みとしています。
HeliumOS:医療機関の運営を効率化するためのEMRおよびHMISソリューションで、診療の記録をデジタル化することで業務の効率化を図っています。
HeliumCredit:医療機関向けの金融サービスで、設備投資や運転資金の調達をサポートし、医療サービスの質向上に寄与しています。
HeliumDoc:患者と医療提供者をつなぐプラットフォームで、オンライン予約や遠隔診療を可能にし、患者の利便性を高めています。
そのため、今まで医療サービスについてアクセスやどうやって受信したらいいのか全く分からず、途方に暮れていた遠隔地の患者さんにも医療サービスを受けやすくしています。
そのほか、2023年6月、Helium HealthはシリーズBラウンドで3,000万ドルの資金を調達し、サービスの拡大と新市場への進出を計画しています。

※参照URL:Helium Health
※参照URL:Announcing Helium Health's $30M Series B

mPharma(ガーナ)

mPharmaは、アフリカにおける医薬品供給の課題に取り組むスタートアップです。この企業は2013年にガーナで設立され、現在はナイジェリア、ケニア、ザンビア、エチオピアやウガンダなどへの進出も果たしています。mPharmaの特色は、医薬品の需給の不均衡や価格の不安定さといった問題を解決するために、薬局や病院に対して供給チェーンを最適化したソリューションを提供しているところです。

例えば、mPharmaは、患者が医薬品を購入しやすくするための「Mutti」というプログラムを提供しており、分割払いなどの柔軟な支払いオプションを通じて、医薬品へのアクセスを向上させています。

2021年10月、mPharmaはアフリカ7か国で100のバーチャルセンターを開設する計画を発表し、遠隔医療サービスの提供を強化しました。

さらに、2022年1月には3,500万ドルの資金調達を行い、コミュニティ薬局ネットワークの拡大や技術インフラの強化を進めています。

※参照URL:mPharma
※参照URL:Ghana's mPharma raises $35million in round participated by JAM fund, Bharti
※参照URL:ガーナ発薬品卸mPharmaが1,700万米ドル調達、プラットフォームのさらなる拡大へ | ウガリスト

Zipline(ルワンダ)

Ziplineは、医薬品や血液などの緊急物資をドローンで配送するサービスを提供しています。このサービスは、輸血や救命医療の現場で必要不可欠な役割を果たしており、迅速かつ安定した物資供給を支えるインフラとして定着しています。
また、このスタートアップは、ウガンダ政府や医療機関と協力し、医療サービスの向上に貢献しています。現在ではルワンダをはじめ、ガーナやナイジェリアでも展開されており、交通インフラが整っていない遠隔地にも迅速に医療物資を届けることが可能です。
このようなサービスは、医療インフラの整備が進んでいない地域において生命を救う重要な手段となっています。

※参照URL:Zipline
※参照URL:アフリカで医薬品をドローン配送 日本では豊田通商に技術提供 Zipline – TECHBLITZ

LifeBank(ナイジェリア)
LifeBank社は、ナイジェリアで血液や酸素などの医療資源を必要とする医療機関に迅速に届けるサービスを提供しています。血液供給の不足はアフリカ全体で深刻な問題であり、LifeBank社はこれに対処するためにリアルタイムで血液供給情報を提供し、医療機関の需要に迅速に応えています。
このスタートアップの特色は、Google社と協力し、Google Maps Platformを活用し、配送時間を24時間から45分以内に短縮することに成功させるなど、デジタルプラットフォームを上手く利用しているところです。
さらに、スマートフォンアプリやデータ分析を駆使し、医療物資の在庫管理や配送ルートの最適化も同時に行っているため、医療機関は必要な物資をリアルタイムで追跡・管理できるようになっています。
現在、LifeBank社はナイジェリア国内の主要都市でサービスを展開するだけでなく、エチオピアやケニアなど他のアフリカ諸国への進出も進めているとともに、ドローンやボートを活用した配送手段の多様化にも取り組んでいます。
このLifeBank社の創設者であるテミー・ギワ=トゥボスン氏は、2019年にアフリカ・ネットプレナー賞で第1位を受賞し、同社の取り組みが国際的に評価されています。

※参照URL:LifeBank
※参照URL:Google マップを使って血液の輸送時間を短縮する LifeBank
※参照URL:LifeBank - Google for Startups
※参照URL:Temie Giwa-Tubosun: the Nigerian entrepreneur delivering blood to patients | Africa Renewal

Rocket Health(ウガンダ)

Rocket Health社は、2012年にウガンダで設立されたヘルステック企業であり、テレメディシン(遠隔医療)とラストマイルヘルスケアサービス(※1)を提供しています。このスタートアップの特色は、地方の患者さんでも都市部と同等の医療サービスを受けられることです。そのため、電話回線やWhatsAppなど、それぞれの患者さんの使いやすいデバイスに対応しています。

例えば、患者さんは電話やWhatsAppを通じて、24時間いつでも医師と相談できるとともに、自宅での検体採取を行い、ラボでの診断結果を受け取ることができます。

また、診断結果によっては提携している専門医との対面診療も予約でき、その際に処方された処方箋や一般の薬はオンラインで注文することも可能であり、自宅や職場に直接配送されます。2022年3月、Rocket HealthはシリーズAラウンドで500万ドルの資金を調達し、ウガンダ国内およびケニアへの事業拡大を計画しています。この資金は、技術開発や地理的拡大に活用される予定です。

※1:ラストマイルヘルスケアサービスとは、医療サービスや医薬品が最終的に患者の手元に届くまでの流通・提供プロセスのことで、特に遠隔地やアクセスが難しい地域への医療提供を指します。
※参照URL:Rocket Health Shop
※参照URL:Uganda Rocket Health telemedicine startup raised US$5M Series A


今後の課題

アフリカのデジタルヘルスケアスタートアップには、成長の一方で課題もあります。これらの課題に対処するためには、政府や民間セクター、国際機関との連携が不可欠であり、持続可能なビジネスモデルの構築や人材育成、インフラ整備など、多角的な取り組みが求められます。そこで、ここでは、実際にどのような課題が持ちあがってきているのかをお伝えします。

資金調達の困難さとインフラの未整備

多くのスタートアップは、事業拡大や技術開発のための資金調達に苦労しています。特に、投資家の関心がフィンテック分野に集中しているため、ヘルステック分野への投資が限定的であり、今後はさらにヘルステックへ投資を集めることが課題となっています。
また、インフラ整備が必要な地域がアフリカ諸国には多く存在しています。そのため、多くの地域でインターネットや電力供給が不安定であり、デジタルヘルスサービスの提供に支障をきたしています。
これらの未整備により、電子カルテの導入や遠隔医療の実施が難しくなるケースがあります。

※参照URL:アフリカ全土で医療サービスのデジタル化を目指すヘルステックHelium Health | Techable(テッカブル)
※参照URL:日本とアフリカをヘルスケアで繋ぐスタートアップ~Connect Afya × Deloitteの対談


規制環境の複雑さと人材不足

インフラ整備が整ったとしても、アフリカ諸国それぞれの医療規制やデータ保護法が異なるため、スタートアップが複数の国で事業を展開する際に法的な対応が求められます。
これらの法令の違いは、事業拡大のスピードが制限される可能性があるとともに、データが集まってもそれを国内や国内外で共有できないため、医療サービスの改善に役立たないというデメリットが生じてきます。
また、人材不足も今後の大きな課題の1つです。デジタルヘルス分野で必要とされる専門知識を持つ人材がアフリカ諸国ではまだまだ不足しており、スタートアップの成長を阻害しています。
特に、技術者や医療専門家の確保が難しい状況であるため、人材を育てる教育制度から改善しなくてはならず時間の無駄が生じてしまいます。
さらに、諸外国からそれらの人材を呼び寄せるとしても、その費用をねん出できるような予算がない国も多いため、人材育成も今後の課題となっています。

ユーザーのデジタルリテラシーの低さ

一部の地域では、未だにデジタル機器やインターネットの利用経験が少ないため、デジタルヘルスサービスの普及が進まないことがあります。
電話回線を使用するとしても、都市部から遠い地域では未だにその回線自体も少なく、電話を繋ぐことさえも困難です。
そのため、医療サービスだけでなく、町全体のインフラ整備の課題も生じるようになり、その結果としてサービスの利用率が低下し、事業の持続可能性に影響を及ぼす場合も考えられます。

※参照URL:新型コロナ禍を通じてデジタルヘルスの実用化が加速(イスラエル) | 変わりゆく中東とビジネスの可能性
※参照URL:プライマリケアを担う薬局をDX化することでアフリカのヘルスケアの未来が変わる - AAIC Holdings
※参照URL:アフリカのヘルステック事情 | 医療の課題とテクノロジーで挑む医療ITスタートアップ


まとめ

アフリカのデジタルヘルス分野は、医療アクセスの拡充や医療サービスの効率化を目指し、急速に発展しています。
医療のデジタル化により、遠隔地や医療機関が少ない地域の患者さんでも、オンライン診療やモバイル健康アプリ、医薬品のデジタル配送ネットワークを通じて医療サービスを受けられる環境が現在では整いつつあります。
アフリカのデジタルヘルスの特色は、インターネットを活用した遠隔医療サービス、医療物資のドローン配送、電子カルテや診断アプリの導入など、多様なネットワーク技術が活用されている点です。
たとえば、ナイジェリアのLifeBankは血液や医薬品をドローンで届け、ウガンダのRocket Healthは24時間のオンライン医療相談と薬の配送サービスを提供しています。

それ以外には、Ziplineのような企業も複数のアフリカ諸国でドローン配送を行い、アクセスが難しい地域への迅速な医療供給を実現しています。
しかし、この分野にはいくつかの課題も存在します。デジタルヘルスに必要なインフラが整っていない地域が多く、特に電力供給やインターネット接続の不安定さが大きな障壁となっています。
また、医療データの保護や国ごとの規制対応、人材の確保も大きな課題です。さらに、地域によっては住民のデジタルリテラシーが低く、テクノロジーに対する理解や利用が十分でない場合もあります。
こうした課題に対処するためには、政府、国際機関、民間企業が連携し、インフラ整備や人材育成、デジタルリテラシーの向上に取り組むことが必要です。
アフリカのデジタルヘルスの未来は、持続可能で包括的な医療アクセスを実現するための大きな可能性を秘めており、これからの発展が期待されています。

ライター紹介
増田さなえ
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。


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