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「痩せたい」と「食べたい」のその先へ

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「摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~元摂食障害当事者からのメッセージ~」の続編として、紗希の「痩せたい」と「食べたい」のその先を描いています。一人でも多くの方が、一日でも早く摂… もっと読む
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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~722

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~722

何のあてもなく、夕飯一つ決められず、途方に暮れているのは、きっと世界中で私一人に違いなかった。

ペットボトルのキャップを開けて、ミネラルウォーターを一口飲んだ。何となく、お酒でも飲まなければやっていられない……そんな気分だった。

お酒でも、ではなくてお酒を飲まなければ自分自身を保てそうになかった。

そうは言っても、何も食べないでお酒を飲めばどうなるか。けれど、何か食べながらお酒を飲んでも結果

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~721

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~721

もう私は、絶望的に壊れていた。

私には、決定的に何かが欠けていた。

どうすることも出来ないまま、時間だけが過ぎていた。

ペットボトルのキャップを開けたり閉めたりを繰り返していた。

道行く人たちは、みんながみんな楽しそうだった……少なくとも私よりは。

友達と楽しそうに話しながら歩いている人、パートナーと並んで手を繋いでいる人、子どもを連れて歩いている家族……見ている限りみんな思い思いの週末

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~720

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~720

……ただ穏やかに、何事もなく過ごせればそれでいいのに。

そんな私のささやかな願いは、いつか叶うのだろうか……

空を見上げると、月が輝いていた。

小さい頃、もっと言えば摂食障害になるまでは、何事もなく過ごせればそれでいいなんて、思ってもみなかった。

何か面白いことないかな……

昨日と同じじゃあつまらないな……

そんなことを友達と言い合っていた。

今となっては、何事もなく過ごせることがど

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~719

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~719

街を歩いている人たちは、一様に幸せそうだった。実際はそんなことはないのだろうけど、自分だけが世界中の不幸と、理不尽と、矛盾を背負わされているような感覚に陥っていた。

ペットボトルのキャップを開けて、ミネラルウォーターを一口飲んだ。

もう、何もかもがどうでもよかった。

何にも思い通りにならないし、何をしても失敗ばかりだった。

悔しくて、情けなくて、それでも何も前に進まなかった。

私は、摂食

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~718

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~718

何も出来ないくせに、何も決められないくせに、何も考えられないくせに、食べることだけはしっかりとこなしている……そんな自分自身が、心底嫌だった。

逃げるようにお店を後にした。

何も悪いことをしている訳ではないのに、いつもこそこそとしていることだったり、背徳的だったり、罪悪感に苛まれたり、そんな自分自身も変えたかった。

外はもう、暗闇に包まれていた。私の心は、いつでも暗闇に包まれていた。

何年

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~717

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~717

今日の夕飯がないのは確かだった。

……私、どうすればいいんだろう。

しばらくぼぉーっと突っ立っていたけれど、そのままミネラルウォーターだけ持ってレジへ向かった。

何も考えないで、お会計を済ませてお店の外に出た。

とりあえずペットボトルのキャップを捻ってミネラルウォーターを一口飲んだ。

頭の中では、

「今日の夕飯はどうするの?」

「何もなかったら、後で必ず過食材の買い物に行くことになる

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~716

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~716

何で世の中には、食べ物が溢れていて、カロリーが高かったり低かったりして、何を食べればいいのか考えなきゃいけないのだろう。

……いつものように、頭の中はぐちゃぐちゃに壊れていた。

とりあえず、近くのコンビニに入ってミネラルウォーターでも買おう。

お店に入って、入り口でカゴを手に取った。冷蔵ケースからミネラルウォーターを取り出してカゴに入れた。

そのままレジには向かわず、フラフラとお惣菜の売り

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~715

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~715

壊れた私を、一体誰が治してくれるのだろう。

気が付いたら、喉がカラカラに渇いていた。

とりあえず、コンビニでミネラルウォーターを買おう。

壊れた私を、一体どうやって治したらいいのだろう。

食べ物なんて、なければいいのに。

食べ物なんて、一つだったらいいのに。

そしたら、何を食べるのかとか、どれだけ食べるのかとか、そんなこといちいち考えなくて済むのに。

植物のように、お水だけ飲んでいれ

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~714

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~714

私が、何とかしなければ。

私が、変わらなければ。

私の未来は、私が決めなければ。

私の未来は、私が選ばなければ。

駅の周りを、あてもなくとぼとぼと歩いた。

コンビニとか、チェーン店のコーヒーショップとか、牛丼屋さんとか、ラーメン屋さんとか、食べること絡みのお店ばかりが目についた。

100円ショップとか、靴屋さんとか、銀行とか、保険の窓口とか、よく見ればそういうお店もあるけれど、私の頭の

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~713

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~713

もう本当に、全ての呪縛やマイルールからきれいさっぱり解放されたかった。

解放されたい?

解放するのは、誰?

解放するのは、私?

もうすぐ最寄り駅に着く。

全ては、私にかかっている。

私がどうするかで、何もかもが決まってくる。

電車がホームに滑り込んだ。

ドアが開いて、人々が乗り降りする。

私も、あわてて電車から降りた。

とぼとぼと、階段に向かって歩く。

全ては、私にかかってい

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~712

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~712

歩き回って少し疲れたので、空いている座席に座った。そしたら、あっという間に眠ってしまった。

目が覚めて、窓の外をキョロキョロと見回した。どうやら、乗り過ごしてはいないようだった。

ペットボトルを取り出して、ミネラルウォーターを一口飲んだ。頭が少しスッキリとした。

ふと、私は一体何をやっているのだろう、という虚無感に襲われた。

休みになっても何の予定もなく、家に居ると食べてしまうという不安か

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~711

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~711

何か、食べ物以外でお土産になりそうなものって、ないかしら……そう思いながら歩いていたけれど、頭の中が『食べ物モード』になってしまっていたので、なかなかそこから抜け出せずにいた。

仕方がないから、このまま電車に乗って帰ろうかしら。

駅はもう目の前だった。わかっているのに、自ら悩みの種を作ることもないか……そう切り替えて、電車に乗ることにした。

最寄り駅まで、どれくらいかかるのだろう。

そんな

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~710

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~710

やっぱり私、しっかり病気なのかもしれないなぁ……そう思いながら、ゆっくりと歩いていた。

でも、まぁ、そんなもんだよねー。

そうそう、仕方がないじゃない、摂食障害なんだから。

そうだよ、看板見ているだけで、実際お店に入っていかないだけマシじゃない?

そうだよねー、それくらいで思っていればいいんだよね……

頭の中では、一人で会話を繰り返していた。

何か、食べ物以外でお土産になりそうなものっ

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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~709

摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~「痩せたい」と「食べたい」のその先へ~709

お菓子は、見ているだけでも楽しいしワクワクする。ただ、実際に買ってしまうと悩みの種に変貌してしまう。

しばらく眺めていたけれど、家に帰った時の葛藤を考えると買う気にはなれなかった。

仕方がないので、眺めるだけにして売り場を後にした。

来た道を、駅の方へと歩いていた。さっき入った洋食屋さんは、ランチとディナーの間のお休みのようで「準備中」の看板が掲げられていた。

せっかく来た街で、何か思い出

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