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フィクションだけが私のことを助けてくれる

はじめまして、原合です。ハラ・アイと読みます。
ゲン・ゴウと迷ったんですが、なんだかゴツいので、せっかくだし軽やかな方にしました。

この記事は私が連載していたSF小説『同乗者たち』という小説のあとがきになりますが、同時に自己紹介も兼ねています。というのも、この同乗者たちは私が常に考え続けていることを小説にしたからです。

自分のことなんて語る必要ない、てか、語りたくないから小説にして消化してるわけで、ですので、あの、小説だけ読んで欲しい、という気持ちでいままで淡々と小説のみ投稿をしてきましたが、これがなかなか読者が増えません。たしかにどこの馬の骨とも分からぬ野郎の小説なんて私も読みたくないな……と考え直し、今、これを書いています。


まず、私はずっと『虚構』だとか、それを生み出す『言葉』だとかいうものに拘泥して生きています。
そして、この『同乗者たち』という小説は、フィクションの世界に生きる者達への『虚構・人間賛歌』でした。


これは当たり前のことではあるけれど、私は、多くの人がそうであると信じていますが、一生誰とも心からわかり合う事なんてできないんじゃないかと思っています。だからどこにいたって誰といたって常に孤独だし、つらいし、しんどい。とくに辛い過去があるとかトラウマがあるとかじゃないけれど、心から人を信用することができない。その前に自分のことすら信用できないのに、他人とわかり合うなんて無理でしょう。もちろん小説を書いていることも誰にも言っていません。
だから本当に辛いときに、生身の人に頼ったことがありません。頼るのは、いつだって大好きな本、小説。ドラマ、映画。アニメ、漫画。
これらは、私の存在を知らない。私という存在を認知できないこれらが、唯一私の味方。
フィクションだけが、私の事を常にだまって受け入れ、『私という存在』を消し、忘れさせてくれました。
かっこいい登場人物たち。かわいいキャラクターたち。特に私は暗い話が好きだったので(厨二病だし)、結構な頻度で主人公らは散々な目にあう(最悪死ぬ)。それを疑似体験して、私は現実を忘れて楽しむ。物語にはちゃんと終わりがあるし、本を閉じれば、テレビのチャンネルをかえれば、ブラウザを閉じれば、いつだって自分に帰ってこれると知ってるから。


安心して彼らが血反吐吐いて頑張る姿を見ていられる。

自分は最低だな、と思うことが増えました。

そう思って書き始めたのが、この『同乗者たち』です。
彼らの痛み、悲しみ、喜び、幸せ、すべてフィクションだ、偽物だって切り捨てたくなかった。わたしが彼ら、彼女らに助けられ、生かされたように、私も彼らの力になれないか。そんな身勝手でエゴ丸出しの感情から、虚構をテーマにした小説を書き始めました。
そう思って、執筆と並行しながらあれやこれや参考になりそうな本を読んでいるとき、「あなたの脳のはなし」(デイヴィット・イーグルマン著/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)と出会いました。
そこで追加したのがこの文章です。

「確かに、フィクションは実在しないからこそのフィクションだけど……それを読んでいるキューは、本当に存在してるでしょう」
「そうだけど」
「キューが感じた、綺麗とか美しいとか、悲しいとか嬉しいとか、そういう気持ちは全部、本物でしょう」
「うん」
「それだけは、その感情だけは、偽物じゃない。無意味なんてこと、ないよ」

キューもまた、アヤノの言葉の意味を考えるように、しばらく口を閉ざした。部屋には機械が唸る小さな音だけが響き、アヤノの傍にある真っ黒いディスプレイに、時たま花のように光が咲く様子が見える。イチや、キューの脳内で起きている出来事を観測しているのだ。
キューが思った「綺麗」だとか「美しい」だとかいう感情もきっと、こうやって可視化することができる。すべて、この世に存在する現象として。

「そうだ……知ってる? 自分自身が感じる『現実の痛み』と、誰かが苦しんでいるのを見て感じる『虚構の痛み』は、脳内で同じ痛み関連領域が活性化するんだ」

(「同乗者たち」  第5章 - 継承者たち 22)


『他人が痛がっているのを見ている時、脳内では同じ痛み関連領域が活性化している』……このことを知った時は、思わず涙が出ました。私が感じていたことは、間違っていなかった。彼ら・彼女らは存在していないかもしれないけれど、私はたしかに彼らの痛みを感じている。彼らの痛みは私の中に、脳内に、科学的に、存在していました。
この小説を書いて良かった。心からそう思いました。

彼らが『書き手』の手のひらの上でもてあそばれているのと同じで、私たち書き手も『社会』だとか『運命』だとか『神』とかいう、目に見えない大いなる何かにもてあそばれています。こんな私にも、きっと彼らのものと比べて遙かにつまらないだろうけれど、終わりまでの物語がある。それをなんとか完結させるため、生き延びるため、これからも彼ら虚構と共にあろうと思います。

小説を読んでくれた方、(もしいましたら)、本当にありがとうございました。
少しでもヨーイチとサキの心に『同情』してくれて、彼らと共に心が動いてくれたならば、これ以上嬉しいことはありません。
私は、あなたにとってはきっとフィクション的存在でしょう。そして私にとっても、あなたはフィクションです。けれどもし、こんな私に共感したり、同情者になってくれた人がいたならば、貴方の心が動いたならば、きっと私は孤独じゃ無いんだなと思います。貴方も孤独じゃないと思います。


いつかはちゃんと生身の人間と向き合いたいと思いつつ、
今はまだ、虚構の人間達を弄びながらnoteで小説を投稿して生ければと思うので、どうぞよろしくお願いします。


<この小説を書くときに参考にさせていただいた本>

あなたの脳のはなし:神経科学者が解き明かす意識の謎(デイヴィット・イーグルマン著/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
あなたの知らない脳──意識は傍観者である(デイヴィット・イーグルマン著/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
大人のための図鑑 脳と心のしくみ(池谷裕二 監修/新星出版社)
言葉の誕生を科学する(小川 洋子, 岡ノ谷 一夫/河出文庫)
「つながり」の進化生物学(岡ノ谷 一夫 著/朝日出版社)


※参考にさせていただきましたが、小説内では間違った使い方をしていることが多いと思います、すみません。すべて私の知識不足が原因であることを明記させてください。どれも面白い、大好きな本なので、是非読んでみてくださいね。



*「同乗者たち」未読の方はこちらから↓

あらすじ
輪廻転生が科学的に証明された世界。前世犯罪を取り締まる『前世監理官』である主人公ヨーイチは、自身の来世である少女と出会う。彼女が言うには、これからヨーイチはSランクをつけられるほどの罪を犯すというのだが……。



* 新しい連載について
「ゴースト・ロックンロール」

新作までの繋ぎに、2009〜2013年くらいの時に書いたヤングアダルト小説をアップし始めました。児童書作家を目指していたときに書いた小説です(わけあって諦めましたが…)
中学生のとき考え、高校で書き始め、大学生のときに仕上げました。初めて最後まで長編を書き上げたという、思い出深い作品です。
「同乗者たち」とは雰囲気が180度違う、ドタバタ・青春・ラブ・コメディ、ロックンロールが禁止されている世界を舞台にした、ハチャメチャ設定の児童書です。テーマもわかりやすく前向きで、割と気に入っていますので、是非読んでみてくださいね。
(ヒロインの名前が同じ『サキ』だってことに、書き終わってから気づいた……この名前好きなんだろうな〜)



* 新作について
二人プレイ〜2RE:Play 世界で最後のゲーム実況者〜
ゲーム実況者を主人公にした、地の文のないSF小説を現在執筆中です。「テキスト」「言語」「言葉の歌起源説(岡ノ谷教授のこの説が大好き)」「創作」「承認欲求」「つながり」「パンデミック」などをテーマに構想中です。

ウイルス・パンデミック系の話はずっと書きたくて、コロナ前からぼんやり考えていたのですが、まさか現実から創作のほうに寄ってくるなんて思いもしませんでした。ウォーキングデッドが好きだから書きたかっただけなのに。コロナに寄せてると思われたくなくてパンデミックの設定は変えています。現実がフィクションに勝った瞬間だな……としみじみ。


新作の方は連載が始まりましたらリンクをこちらに貼らせていただきます。
それではみなさま、今後ともよろしくお願いします。

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