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できる人は辛いよ 頼られ続けたその先に 地方公務員の出世(後編)

 ここまで階級が上がると、気力体力に恵まれた個人が、社内ルールに順応した滅私奉公一徹の集団が出来上がる。ここからは残業代は出ない。

 議会対応がメインの業務の1つにもなるが、いつ来るともしれない質問の原稿を待ち、来た途端に部下に資料を指示しつつ、原稿を上げる。各課の原稿を集約して、部長以上は一人ひとりのオッケーが出るまで帰れない。僕はどうせ喋るんだから、句読点はある程度間隔を置いてついていればいいと思うのだが、やはり原稿を議場で読む人の目は緊張感が違い、一言一句まで修正される。

 そして、議会が始まれば、どんなに時間が延長しても、自分の課の部分には裏に張り付いていなければならない。どんなアドリブ質問が飛んでくるか分からないため、気は抜けない。 
 上で答弁している人だって、全てを細かく記憶しているわけではない。その方々が根拠を持ってスラスラと説明できるためには、大勢の支えが必要なので、その支え筆頭となるのである。

 相手の議員さんは、仕事の成果を発表する晴れの舞台であり、質問が長い方もいる。終業のベルが鳴る中、帰りてえなぁと思って窓を眺めることになるのか、それとも必死に原稿に張り付いているのか…どちらも大変である。

 国家公務員の残業の原因の一位は議会対応だったと言うことを聞いて、さもありなんと僕は思った。まぁ、うちの町の議会は地味なものだが、あれだけ声を張り上げ、怒号やヤジが飛ぶ国会で、議員のスキャンダルなどで本筋をずらされ、入念に用意した原稿が紙くずとなっていく官僚が、見限って辞めていくのはよく分かる。

 新町長が就任したとき、「残業代を出さなくていいなら、そいつらに休日業務をさせよう!!」と誤った思いつきのもと、課長同士で組まされ、休日に税金を滞納している方の家に突撃させられていた。労働基準法もクソ喰らえの月月火水木金金である。

 退職後に呼び戻され、コロナ対策の最前線に立たされた方もいた。
 町民からの怒号や非難、協力を要請した医師からも怒鳴りつけられて、若手がどんどん参ってしまってついにお声がかかったのである。何人もいなくなる環境を放置したほうが悪いと思うのだが改善されることはない 
  月13万くらいしかもらっておらず、残業しても残業手当は時給1000円前半。とてもじゃないけど割に合わない。
 その雑巾のようにつがわれる様を見て、若手の心はさらに出世から離れていくのであった。

「原田、俺はもう嫌だ。階級上がることに辛くなっていった…」
「一年できつい部署に異動になった。いじめだよな」
 家族を背負い、逃げられない彼らは素晴らしい労働力を食いつぶされているように見えるのである。


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