テッパンの味に憧れて 〜お好み焼き探究の旅 その後〜
ひとは誰でも しあわせさがす旅人のようなもの
希望の星に めぐりあうまで歩きつづけるだろう
不朽の名作アニメ「銀河鉄道999」のテーマ。しみじみいい歌詞ですね。希望の星にめぐりあうまで歩き続ける。それが人間の性(さが)であり背負うべき業であるということなのでしょう。子ども相手に手加減せずこんなデカイ歌詞を正面からぶつけてくる当時のアニメおよびアニソンの人生観・世界観に大いに薫陶を受け育ちました。今も折にふれ口ずさみたくなる歌です。
これを関西人の身近な例に置き換えるとこうなります。
ひとは誰でもお好みを焼く見習いのようなもの
理想の味にめぐりあうまで焼いては返すだろう
そうなのです。関西人(とくに生粋の大阪人)は生きている限り、お好み焼きを理想の焼き上がりに少しでも近づけるための研鑽を怠りません。それが関西人の性であり業なのです。
去年の秋にもその時点でのベストと思える焼き方をここに記し、多くの方にご覧いただきましたが、そこからかなり変わったので、再び掲載する次第です。
行列のできる名店「きじ」に憧れて
大阪・キタにある名店「きじ」は市内でも指折りの名店。新しい生活様式なんて言葉が生まれる前はいつも、国内外を問わず大勢の客が連日詰めかけ、列をなし、熱々のお好み焼きに頬を上気させ、ハフハフもぐもぐ、笑顔を交わしていました。我々夫婦にとっても、もはや信仰の対象、聖地のようなお店です。
あれは旧正月近く、まだ世界がここまで悲しみと緊張の面持ちをマスクで覆う前のこと。それでも海外旅行客は減りはじめ、混雑がそれほどではなかったので久しぶりにのれんをくぐり、名店の味を堪能しました。ちょうどタイミングよくカウンターの中央に案内してもらえたので、大将が目の前の鉄板で焼いてくれるのをマジマジと観察できました。
特等席に陣取った我々、とくに妻は食い入るように見つめ、ありとあらゆる美味への秘訣を盗もうとしていました。この日を境に、我々のお好み焼きは大きく路線変更することに。
春先ずっと高値安定していたキャベツの価格がこなれてきたので、いざ、レッツクッキーン。
キャベツは2段刻みで!
妻がまず最初に目ざとく見つけたのは、キャベツの刻み方が繊細な葉先と固い芯の部分で違うということ。火の通りを均一にし、なめらかな舌触りにするためには非常に理に適った方法といえる。
それまでの我々は洋食のつけ合わせに使うレベルまで細い千切りにすることでやわらかくふんわり焼き上げようとしていたが、ここは名店に倣い2段階に分けて刻む。葉先はだいたい5〜6ミリ四方に刻み、芯の方はさらに細かいみじん切りに。
ちなみにお好み焼き一人前にキャベツをどのぐらい使えばいいの? という見当としては、キャベツを上から見た角度で言うと60°〜90°です。キャベツの大きさによって調整してください。
生地は別ごね、牛乳を入れてサラサラ系!
別のボウルに業務用お好み焼き粉を厚さ1センチに満たないほど入れ(これで2人前)、水ではなく牛乳で溶く。このほうが生地がふんわりスポンジーに焼けるっぽい。
卵を割り入れ、さらに牛乳で伸ばしながら、ホットケーキ生地よりややゆるいぐらいに仕上げる。
伝わりにくいけどこのぐらいです。シャバシャバとトロトロの間。
キャベツにサックリ生地を混ぜ合わせる。他の具も入れる。この日はエビ玉という関西では超イレギュラーな具。だって豚切らしてたしイカ高いねんもん。
わかりますかキャベツと生地の量の比率。キャベツの角が見えるけど全体にはしっとり濡れている、ぐらいの感じ。これ以上多いとボッテリ重い食感になって関西人から「ワレー、誰が野球のベース食わせぇゆうたんや」と怒られます(限りなく本当に近いウソ)。
焼きは弱火で7分×2!
プロのお店の鉄板は厚みが店によっては1センチ近くあって、そこに蓄えた熱で火を通すからこそあのふんわりした焼き上がりになるのであって、決して家庭のコンロとフライパンでは同じ焼き上がりにはなりえない。けれども妻曰く「きじではかなり長時間焼いていた。弱火でじっくり、が正義ではないか」とのこと。
試行錯誤の末、妻が辿り着いたのは弱火でじっくり片面7分、両面で14〜15分。ここはまだ吟味の余地があるので今後変わっていくかも。
中央をくぼませたカルデラ型に生地を流して焼くこと7分。キャベツの縁っこに焼け色がついてきたらひっくり返しどき。ひっくり返したら一度だけ中央を押す。こうすることで中の空気が一度押し出され、入れ替わりに熱い空気が入ってきてふんわり仕上がるらしいですが、かなり儀式的要素のほうが大きい気も。
両面色よく焼けたら中央に箸か何かで孔を開けてみてください。湯気が立ち上り、箸に生地がべちゃべちゃひっつかなければ火が通っています。
名店の味に迫る!? 現時点のベストお好み焼き。
本当はもっとマヨ&ソースかけるけど健康によくない&生地が見えなくなっちゃうのでこのぐらいで勘弁しといたるわ。おう。
うん、生地感はちょうどよかった。キャベツもやわらかく甘みが出てて、食感も軽い。焼けたのをお皿に盛っちゃうとどうしても冷めていくので、強いて言えばそこが問題かなあ。できれば鉄板で保温したまま食べたいがそうもいかない。ホップレがある人はぜひそうしてください。表面のフッ素加工が剥げてもいいなら、ひとつコテでフハフハ言いながら切っては食べ切っては食べ、してください。雰囲気出ること間違いなし!
これはあくまで現在の我々のベストであって、冒頭に書いたように関西人は生きている限りお好み焼きに工夫をし続ける生き物。いつかまた全然違うメソッドになっているかもしれません。
きっといつかは君も出会うさ 青い小鳥に。
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