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ポテサラ原理主義と自家製マスタード

食通や料理好きを自認する方々にはポテサラ、すなわちポテトサラダのレシピには一家言あるという御仁が多いと思う。そしてしばしば「このポテサラがいちばんうまいねん」論争の火蓋が切って落とされる。

うちの奥さんは自他共に認めるポテサラ原理主義者である。具はジャガイモとゆでたまご、それ以外は何も入れてはならぬ、という厳格かつ禁欲的なポテサラ人生を貫いている。対していろいろ具をアレンジして楽しみたい自分としては外で浮気するよりほかはなく、大衆居酒屋や創作料理店に行こうものなら必ずポテサラを注文して溜飲を下げている。ポテサラの美味しいお店にハズレなし、と言っていたのは料理研究家のコウケンテツさんだったかなあ。違ったかなあ。

ところでポテトサラダって火も通ってるし、どこがサラダやねん、と不思議に思った方も多いんじゃないでしょうか? 
ルーツは150年以上前のロシアでのことのようです。モスクワのレストラン「エルミタージュ」のシェフをつとめたリシュアン・オリヴィエというフランス人が考案した「オリヴィエ・サラダ」がその原型と言われています。詳しいレシピは残っていませんが、冬が長く厳しいロシアでは新鮮な生野菜を食べる習慣がなく、その代わりに酢漬けや塩漬けの野菜を多く食べていたようで、そのあたりの食事情を背景に誕生した料理のようです。

ストックしておいたメークインにわさわさ芽が出てきたのでさっさと消費すべくポテサラを作ることになった。と、同時にここ数日経過を見守っていた自家製食材があった。自家製マスタードである。

奥さんはジャガイモとゆでたまご以外の「具」を許さないが、マスタードぐらいなら入れても逆鱗に触れることはあるまい。今回は上品な香り(予想)の自家製マスタードで大人のポテサラ、いっちょ目指しちゃいますか。

こうしてまたよけいな色気を出してキッチンに向かう私であった。

マスタード=マスタードシードの酢漬けをマッシュ。

マスタード02

たまたま以前ちょっと必要になって、スパイス専門店をハシゴしてマスタードシードを買い揃えていた。マスタードシードには大きく3種類あって、イエローマスタード、オリエンタルマスタード、ブラウンマスタードとそれぞれ呼ばれている。ごたいそうにもこの3種類をそれぞれ小袋で持っていた。いや持て余していた。まだしもイエローはときどきカレーに入れて少しずつ減っていたけど、オリエンタルとブラウンは手つかずだったのだ。

あ、これマスタードソースにしちゃえばいいんじゃない? とトテッと思いついてレシピをググる。お手軽そうなのは約一時間水に浸して柔らかくしてからお酢や調味料と共につぶして混ぜる、という工程だったのでさっそく挑戦。オリエンタルマスタードとブラウンマスタードを混ぜて水に浸けてみる。一般にはオリエンタルの代わりにイエローを使うようだけど、前述のとおりイエローは在庫僅少なので一か八かの実験にはもったいなくて。

一時間後、いそいそと様子を見てみる。

全然ダメだった。一時間やそこらでは一向にふやけなかった。

マスタード03

やむなく路線変更。酢、砂糖、塩に直接浸けて数日放置。どうもこっちのほうが多数派のレシピらしい。

マスタード05

途中、朝寝ぼけてかつおぶしの容器と勘違いし、一部を誤って納豆ごはんにかけてしまうというハプニングもあった(ふつうに食べた)が、大部分はそのまま、なんとか指で押すとつぶれる程度にはふやけた

マスタード06

となると次はこうなって、

マスタード07

こうなって、

マスタード08

こう、である。うちのキッチンにはあまり電化製品がなく、フードプロセッサ的なものは持ち合わせていないので、チマチマすり鉢で摺る。

すると、おお、見たことある粗挽きマスタードの雰囲気になってきた。爽やかな香りも漂ってくる。一般にはイエローよりもオリエンタルのほうが辛味成分が強いということだけど、摺っているうちに鼻がツンとしたり涙が出たりというほどではちっともなく、あくまでスッキリした品のある香り。

一口味見してみると……、アワやキビと言った雑穀のようなプチプチ感が楽しく、辛味や刺激はなぜかごくマイルド。たおやかで大人しいマスタードに仕上がった。幾分苦味があるが、寝かせるうちに味がなじんでまとまるとの情報も。楽しみー。

マスタード01

妻は空き瓶捨てない主義者でもあるので、以前食べたマイユのマスタードの瓶が取ってあった。ここぞとばかりに活用。ラベルこそ剥がしちゃったものの、誰がどう見てもマスタードのできあがり。うふふ、出来ちゃった。マイマスタード 。

大人のポテサラに自家製マスタードを。

ポテサラ03

ゆでたジャガイモをゴロゴロ感をある程度残してつぶし、熱いうちに酢・塩コショウ・牛乳を混ぜる。熱いうちに調味すると味がしっかり中まで入るので、この後マヨネーズが少なくて済みます。ここだけが今回有用な情報。

ポテサラ04

マヨ、そしてマスタードをイン。ゆでたまごを刻んで加えればできあがり。

ポテサラ05

いただきます。……うむ、これはさっぱりスッキリ、プチプチ感も楽しいちょいリッチなポテサラに仕上がった。辛味が強くないので多めに入れてもキヌアみたいなトッピング感が出てよい。言い換えると摺ったときにつぶし方が足りなかったんだろうけど、そこは自家製の贔屓目でいいほうに評価することにする。

肝心の妻の感想はというと「もう少し全体になめらかなほうが好き」と、マスタードの有無以前の調理工程にダメ出し。けど今回のアレンジの方向性に関しては一応おいしいと言ってくれたので、ひとまず安堵。よし。

他にも肉料理・魚料理など、可能性がいろいろありそう。買い物が楽しみになってきたぞー。その日そのとき食べておしまいじゃなくて、こうして次の日以降に積み重ねていける作り置きの食材や調味料を作れるのって、なんか料理上級者っぽさありますよね。

なんて、マスタードなのにめちゃくちゃ甘ーい自己評価をしつつ、本日はこのへんで。


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