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直面するコロナ問題の原点を知り、備えるために 「中国コロナの真相」 宮崎紀秀

 中国で暮らしていた時になぜ、これほど突然、理不尽に、かつ、無力感にもてあそばれながらも、中国という国、共産党、地方政府と、あらゆる圧力に意向によって振り回されるのかということを不思議に感じていました。
 日本で暮らしてる限り、なかなか接することのない中国という枠組みでは、人が本当に正しいと思ってることもできないことは、よくあります。それが日本人の中国に対する偏見だったり差別意識だったり、反中国の言論だったりに結びついているように思えます。

 でも中国の中にも本当に、ごくごく普通の人たちがいて、正しいことをしよう、本当のことを話そうという人たちが普通に暮らしています。私の友人たちもそうです。そんな人達から発せられる本当の話、体験談は、実は価値のある普通の中国を伝えています。バイアスがかからない限り、政府からの圧力がかからない限り、たとえ圧力がかかったとしても、それを差し引いて斟酌する。正しい中国の姿を知るにはやはりそんなふうにして、事実を一つ一つ積み重ねることだと、中国が暮らしていて思いました。

そんな当時のことを思い出させる、そして、偏見を持たずに中国を理解するためにも、適した本です。

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コロナの問題と聞いて多くの人が思い浮かべるのが、最初に中国でコロナの問題について知り合いにメッセージを送った中国人男性医者が、政府によって拘束された後、自らも感染して死亡したケースでしょう。その時の李医師の死の様子の記録が、このルポには詳しく記載されています。

あと武漢にいた日本人を帰国させるために北京にある日本政府の中国大使館職員が動いた救出作戦の裏舞台、裏事情を大使館の職員から聞き取った内容・これは本当に裏舞台のしられざるドキュメントでもあり、テレビでも放送されていましたがドラマのような、映画のような話でもあります。

あと本人の日記が本にもなっていた、中国人の方方さんの「武漢日記」を巡る話。そして、まるで野戦病院だと例えられる中国の病院での、まだコロナについての情報が少ない頃の激動の対応と、実際に現場で対応にあたった医療関係者の悲鳴、混乱、パニックぶりなど、当時の詳しい様子。

まさに多くの人がもう忘れてるかもしれない、ほんの少し前のこと、出来事がしっかりと記録されています。

非常に面白い本です。
特にこれから中国でビジネスをしようという人、中国に駐在しようとする人、中国人と付き合うことの多い人、そしてコロナと向き合い、前線で奮闘している人たちにとって、とても参考になる情報がたくさん盛り込まれています。
コロナになるとは実際に何が起きていたか、経緯やその後の経過、実際に何が起きたのかという事実が書かれています。同じタイミングで私も同じように中国に関する情報をフォローしましたが、この著者が書くように、やはり正しい事実を記録しておくことが、事実を嘘で塗り固めて、やがて嘘が真実になりかねない中国という国の常套手段、テクニックに抗うための方法でもあります。
ちゃんと記録を残すこと、その記録をもとに行動することがやはり大切なのだと思います。

中国と付き合うと、正しいこと、自分が正しいと思うことも、やはり共産党や中国の国という組織の前ではかき消されることは度々あります。
そんな中でいかに本当のことを伝えるか、中国の人も奮闘しています。みんなが共産党の言いなりになっているわけではないです。中にはちゃんと正しいことを伝えよう、普通の言動を取っていこうという良識を持った人たちもいます。

一方でそんな人たちを体制の方針という名のもとに抑えつけようという人たちがいるのも事実です。
それは立場や生活や様々な状況、条件によって、それぞれの人たちの行動の制限に導かれていきます。そんな、人としての強さと脆さ、弱さが、この本には書かれています。

全体的な方向としては、やや日本人受けのしそうな、中国の暗い部分、問題の部分が強く感じられます。これは出版業界にある、中国叩きの本ほど売れるという要素が影響してるのかもしれません。

著者自身は非常に冷静かつ客観的に事実、ストーリーをピックアップしていると思います。今、コロナと戦う人たちにとって、そもそもこのコロナという問題がどのように中国から広まり、最初、混乱したのか、そして今後、私たちが今、直面しているコロナのような問題と同じような問題が起きた時、人や国がどんな対応するのか、備えるためにも、この本はとても参考になると思います。

著者は私と同じ1970年生まれ。非常に実直な人であることが文章を読んでいて分かります。実直、誠実、ひたむきな人であろうということが文章から感じられ、体制におもねることわけでもなく、ただまっすぐ生きようという姿勢がひしひしと伝わってきます。コロナ下のいま、改めて原点を見つめなおすのに適した本です。

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