アルコール依存症者へ贈る愛の言葉-17スリップについて
断酒に必須なものとしてもう一点、焦らないこともつけ加えたい。
スリップ(再飲酒)の可能性はいつもある。
できることならスッパリやめてそのまま回復しつづけられれば最高だ。
けれど進行した依存症でそれは相当むずかしいと思う。
はじめのうちはスリップがとてもショックだった。特に長く断酒が続いたあとはがっかりしてしまう。
でもスリップしては再びやめるために苦しむJの姿を見ていて、当たり前だけど、一番がっかりしているのは本人なのだとわかるようになった。
酔ったときの態度も変わっていった。
前回のスリップの時は、私を罵倒するどころか謝りながら飲んでいた。
ごめんよ
やめたいんだよ
ねえ助けて
そんな風に、飲んでいながらも正気のJがそこにいた。
断酒を決意したばかりの頃の、まるで悪魔のような別人格になってしまう酔い方とはまったく違う。
この人は文字どおり自分自身と闘っているんだと思った。
アルコールを摂取することで健康を犠牲にしてしまうのはとても悲しいけど、スリップするたびに内省も深まる。
いまはスリップも含めて回復のプロセスだと理解している。
断酒3年回復5年という話を読んだことがある。
3年やめたら飲酒欲求は落ち着いてきて、5年やめてはじめて精神的肉体的に健康な状態を取り戻せる、という意味だ。
一番初めの目標として断酒3年という設定は悪くなかった。ただ漠然と『ずっと』というのと3年という具体的な期間とでは気分が違うからだ。
一生回復しつづけ変わり続けるんだろうし、スリップの可能性はいつもあるという一種の諦観があるので、今は期間についてはあまり気にしていないけど、断酒を始めたころはJのおかしな言動に振り回されるたびに3年、3年、と頭の中で繰り返してしのいでいたのを思い出す。
状態が悪いときはつらい。でも死ぬまでつきあう、治ることのない病気なのだ。つらい時こそ長い目で見る気構えを思い出してほしい。