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法治国家にある文明的中進国の罠

松下幸之助 一日一話
10月 1日 法治国家は中進国

今日、法治国家というのは、だいたい先進国ということになっていますが、私は法治国家は真の先進国とは言えないのではないか、という気がします。是非善悪が何でも法律で決せられる法治国家は、いわば中進国であって、真の先進国、文明国とは、法律がきわめて少なく、いわゆる法三章で治まっていく国、それだけ国民の良識が高い国ということではないかと思うのです。

とすれば、真の先進国になるためには、やはり国民の良識の涵養というものを大いにはかっていかなければなりません。そのことに成功しない限りは、先進国にはなれないのではないかと思うのです。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より


昨今の開発経済学において、中進国には2017年世界銀行が提唱したと言われている、「中進国の罠」、或いは、「中所得国の罠」が存在するとされています。「中所得国の罠」とは、具体的にはアルゼンチン、ブラジル、チリ、マレーシア、メキシコ、タイを始めとする多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷している状態のことを指します。(参考:内閣府 https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sa13-02/html/s2_13_2_1.html )

仮に、文明的な側面から先進国というものを鑑みるならば、法律ありきの国家というものはやはり中進国でしかなく、法律を超える確固たる哲学を有する国民が多く存在する国家であってこそ先進国と言えるのではないかと私は考えます。法律ありきの国家は、謂わば文明的な「中進国の罠」に陥っている状態であるとも言えます。法律とは憲法と置き換えても同じことです。

私は、2015年9月16日付「安全保障関連法をめぐる議論に関しての私の見解」( https://ameblo.jp/naka-yan/entry-12073858840.html )と題し以下のように述べさせて頂きました。

(以下転載)
…結論から述べるのであれば、国際社会における日本人の役割を考えた上で、私は”条件付き”で賛成であると考えています。その条件とは、現代の日本人に失われているナショナリティを生み出し、哲学や規矩となり得る教育を同時並行的に行うということです。加えて、政府の法案成立を急ぐ拙速な対応には懸念を抱いております。

…(中略)…

現代の日本人には、戦前の日本人が有していたようなナショナリティを生み出し、国民皆が同じ方向を向いて動ける哲学や規矩が失われています。現状の日本においては、この哲学や規矩の役割を果たしているのが日本国憲法ではないかと私は考えています。それ故、日本国憲法は容易に変えるべきではないと私は考えています。

…(中略)…

現状において、憲法改正を試みるのであれば、日本国憲法の代替となる新たな哲学や規矩になり得るものを作っておくことが必要であると、私は考えます。それを生み出すことを可能とするのは、幼少期からの教育であると考える訳です。…

現在の日本は先進国ではなく、法ありきの中進国であるために、私は2015年9月の時点では条件付きで賛成とした訳です。恐らく松下翁が生きていたならば、丹羽宇一郎さんと同様のことを仰ったのではないでしょうか。法ありきの国家においては、「現状」は絶えず変わり得る訳であり、30年後、50年後の戦争が始まりそうな時に、『法律にそう書いてある』となるのが怖くなります。日本国憲法を日本人の哲学や規矩とするのではなく、日本人夫々が法に依らない確固たる哲学や規矩を有しておく必要性を感じる訳です。

国民夫々が一個人としての確固たる哲学や規矩を構築するためには、幼少期からの教育、特に答えのない道徳などにより思考力を鍛える教育が不可欠であり、それが具現化した後に、日本は本当の先進国になれるのではないかと私は考えるところです。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp





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