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マーケットインにより商品を発意する

松下幸之助 一日一話
10月14日 商品を発意する

商売をしている人は、その商品を買って使われる人の立場というものが一番よくわかります。ご需要家のみなさまが商品について日ごろ抱いておられるご不満、ご要望というものを聞く機会が一番多いのが商人でしょう。したがって、真にお客さまの要望にそった商売をするためには、そのご不満なりご要望を聞きっぱなしにするのでなく、それを自分で十分に咀嚼し、商人としての自分のアイデアを考え出す。いわば、みずから商品を発意してそれをメーカーに伝え、改善、開発をはかるよう強く要望していくことが大切だと思います。そこまでしてこそはじめて、真に社会に有益なほんとうの商売というものも可能になるのではないでしょうか。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

マーケティング的観点から考えますと、お客様のご不満なりご要望にこそ、企業が注目する「インサイト」が隠されていると言えます。インサイトとは、簡単にはお客様が持っている潜在的なニーズと言い換えてもいいものです。このインサイトについて、日本市場においてはアンケートでの把握が難しいと言われています。なぜならば、日本人の多くが日本特有の民族的文化を背景として、本音と建前を使い分ける人々だからです。仮に、一般的なアンケートを行なったとしても聞こえの良い建前の回答しか集まらず、インサイトとはかけ離れたものになってしまうことが知られています。そのため、日本企業で活躍されているマーケティングのエキスパートと称されるトップ経営者ほど、アンケートに頼らずそれまでに培ってきたご自身のKKD(勘と経験と度胸)からインサイトを導き出す傾向が強くあります。

更に、インサイトの中には、ポジティブインサイトとネガティブインサイトが存在します。どちらも重要ですが、特にネガティブインサイトへのアプローチが重要となり、ネガティブインサイトに対して、ファンクショナルバリューを物理的に満たすだけではなく、エモーショナルバリューを満たしてこそ真にお客様が求めている商品や、お客様が一歩先に求める商品を作ることができます。

マーケティングのエキスパートと称されるトップ経営者たちはKKDを基にインサイトを導き出すと先述しましたが、これ以外にKKDを持たない私たちでも実行可能なインサイトの把握方法があります。それは、リレーションシップマーケティングによるインサイトの把握です。リレーションシップマーケティングとは、簡単にはお客様が本音を言ってくれるほどの良好な関係性を常に築き上げておき、お客様のニーズを把握するということです。

これまでの日本企業においては、良い製品さえ作れば売れるという製品ありきのプロダクトアウト思考が強くありましたが、今現在企業に求められていることはお客様のニーズありきで、ニーズを満たす製品をつくるマーケットイン思考であると言えます。具体的には、「良い製品が出来ましたので、どこで、誰に、どのように売りましょうか?」というプロセスではなく、「お客様の抱える問題やニーズに対して、この製品を提案・提供することで、問題解決しましょう」というプロセスになります。

これはハーバード・ビジネス・スクール教授であるマイケル・ポーターが提唱するCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)にも繋がり、企業における事業活動のサステナビリティを高めることでもあります。つまりは、松下翁の仰る真に社会に有益なほんとうの商売というものになるのであると私は考えます。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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