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経営は総合芸術だ。ビジネスをやるならば、時代を変えろ!

松下幸之助 一日一話
10月12日 経営は総合芸術

経営者の仕事は、画家などの芸術家の創造活動と軌を一にするものだと考える。一つの事業の構想を考え、計画を立てる。それに基づいて資金を求め、工場その他の施設をつくり、人を得、製品を開発し、それを生産し、人びとの用に立てる。その過程というものは、画家が絵を描くごとく、これすべて創造の連続だと言えよう。

なるほど、形だけみれば単に物をつくっていると見えるかもしれないが、その過程にはいたるところに経営者の精神が生き生きと躍動しているのである。その意味において、経営はきわめて価値の高い、いわば総合芸術ともいうべきものだと思います。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

松下翁の仰る「経営は総合芸術」とは、「芸術の中には経営的要素が含まれている」とも換言できます。これに関して、私は10代半ばで「建築」の中にある「芸術的要素と経営的要素」の両側面を感じることで、建築士ではなく「建築家」を志したという契機があります。私に言わせれば、建築こそ総合芸術であり経営そのものであるとも言えます。

建築の場合、エスキースから始まり、図面やパース、或いはスタディ模型の製作などにより、現実世界に存在しない建築物(創造物)を、既に目の前に存在しているかのように事前に造り上げる必要があります。これはある種の、未来へのビジョンであるとも言えます。このビジョンは、自分の内なるものを見える化するだけが目的ではなく、他者でも理解、納得できるようにカラーで表現し伝えることが重要となります。お互いにビジョンをカラーで共有することで、これから進むべき方向性を同じにし、建築物の創造というゴールまでの困難を乗り越えることを可能とします。

このゴールまでのプロセスにおいては、いつ何時までに完成させ納品するという「デッドライン」が必ず設定されます。万が一にでもこのデッドラインを超えてしまうとその建築物での営業が遅延したり、或いは、転居の日数が延びてしまうことになり、損害賠償の対象にもなってきますので重要なファクターになります。更には、デッドラインからの逆算による「工程表」の作成も重要になってきます。この工程表には、計画性が求められるだけではなく、各工程によって様々な技術を持つ異なる人やモノが関わってきますので、現場における各工程の詳細な把握なくして精度の高い工程表の作成は出来ません。各工程によって様々な技術を持つ異なる人たちが同じ方向性を向かい行動するために必要になるのが、ビジョンの役割を果たす建築図面(意匠図のみならず施工詳細図など)となります。この建築図面には基本的なフォーマットをベースにした様々な専門用語が記載されています。基本的なフォーマットや専門用語は、ビジョンを理解するためには不可欠な共通言語であり、図面すら読めない人間では、ビジョンを共有することすら出来ず話になりません。

翻って、私の記憶に新しいところでは、「経営は総合芸術」であると松下翁と同じことを仰っていた人がいます。それは、ファーストリテーリングの柳井正さんです。2012年9月19日にソフトバンクアカデミアの公開講座にて、孫正義さんと柳井さんの対談がありました。私はその際、講座への参加資格はありませんでしたが、当日勝手に会場に伺い会場にいた案内担当の方に、「末席でいいので参加させてください」と申し出ると、そのまま会場に入れて頂けました。

その際の内容についてはメモをしてありますので、当時のメモを振り返りながら、柳井さんと孫さんが対談にて仰っていた印象深いお話を以下に挙げていってみようと思います。

「期待を与えるのではなく、期待を越えるものでなくてはダメ!!」
ユニクロのニューヨーク出店の際に、「知ってもらう事」の大切さを知った。先ず、SOHOで知ってもらった。先ず知ってもらい、そこから感動を与えることが重要である。
「本物は1個しかない!グローバルでNo.1のものを世界中の人が欲しがっている」
ジョブズはiPhoneというたった1機種で世界を変えた。本当に売れるモノは、100点満点のモノだけ。100点満点ならば世界を制すことが出来る!!
「商売においては、天才的なセールスマンでなくてはいけない」
ジョブズはプレゼンの全てが芸術であり天才だった。プレゼンの1週間前から誰にも合わなくなる。プレゼンにかける思いが違う。正解のない答えを深く洞察する力が凄い!そのためユーザーにとって一番良いモノを作ろうとする。
「良い経営者になるためには、問題に答えちゃいけない。問題を自分で見つけなくてはいけない。」
人々は何に困っているのかが見えれば、それを解決することで、人々の役に立つことができる。自らで問題の提示が出来れば更に良い!!
「ビジネスをやるならば、時代を変えろ!」
他人が評価して(期待を越えて)始めて儲かる。目先の利益も大切である。クレイジーになれ!くるった所がなければ成功しない!!本当に勝とうと思ったら「正面突破」のみ!!
「知ってる事がジャマになる。」
知っている事が出来る事ではない、出来る事と知っている事は違う。
「世界一になろうとしないとダメ!!」
日本の経営者はビジョンがない。1位以外だめだ!金メダル以外要らない!飛び抜けて圧倒的1位!!生きている間に、自分のやった事を残すべき!!
「気違いは良いが、バカな経営者はダメ!」
ビジネスに個人の才能はいらない。チームで攻めるもの。そのため、チームの方向性が大事になる。「人と決定的に違う何か、チームで決定的に違う何かが重要になる(但し、自分の才能に頼ると失敗する)。自分が大事にしたいもの、人に絶対勝ちたいという誰にも負けない魂!!が重要。
「負け戦には誰もついてこない。勝ち戦でなくてはいけない!!」
そのためには勝ち続ける必要がある!信用を大切にし、首尾一貫すること。最後の独りになろうがやる!という志が不可欠。
「ビジネスは面白い。”総合芸術"である。」
「Be daring, Be first, Be different.」(レイクロック氏:マクドナルド創業者)
「企業経営は何でもあり!!」

久々にメモを読み返してみましたが、お2人の総合芸術家によるお話は以前よりも面白さが増したような感もいたします。私も多少は、総合芸術家に近づいてきた証拠かもしれません。

僭越ながら、上記の内容に私なりの補足を加えさせていただきます。
論語には次のようにあります。

「異端を攻むるは、斯れ害のみ。」(論語)

学問・技術などで、すべて正道をはずれたものを異端という。そして、この異端をも考究するのは、結局益よりも害が多い、という意味です。

加えて大学の一説には次のようにあります。

「物に本末(ほんまつ)あり、事に終始(しゅうし)あり。先後(せんご)する所を知れば、即(すなわ)ち道に近し。」(大学)

如何なる物にも根本と末節があり、何事にも始めと終わりがある。人生もまたしかりだ。本末前後を誤らぬことが、成就への近道だという意味です。

常識を破るということと、異端は異なりますので注意が必要となります。日本の伝統的な芸道の世界では、「型破り」と「形無し」という言葉が古くから以下のように使われてきたそうです。

「型を知り身につけてから型を破るのが型破り。型を知らないで型を破るのは単なる型無し」

常識を破るとは型破りのことであり、異端とは型無しのことでしかありません。ジョブズのようにクレイジーに型を破る気違いとなり時代を変えることを目指したいものであると私は考えています。


※記事:MBAデザイナーnakayanさんのアメブロ 2017年10月13日付 を読みやすいように補足・修正を加え再編集したものです。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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