霧の街 雲の中の廃墟
霧の濃い朝、海から街を見ていた。
朝起きたら、窓の外は乳白色ですっぽりと覆われていた。
かろうじて近くのビルが見える程度で、太陽も見えない。
こんな時、海から街を見たらどうだろう。
ふと思って、ここに来てしまった。
海の上も霧は出ていたが、風に吹かれて薄れていた。
海から街を見ると、まるで雲の中の廃墟のようだった。
ゆったりとした霧の中から黒いビルがぼんやり浮かび上がる。
朝方なのでまだビルの明かりはほとんど見えない。
幻想的だ。
そこに人はいないような気がした。
なんだかこの広い世界の中、私一人しかいないような感じ。
背中がゾクゾクする。
海の上では、薄れた霧を通して弱い日差しが差し込み始めた。
周りの水面もキラキラと輝きだす。
陸の街では風が霧を大きく波打たせ、まるで向こうが海の中の街のようだ。
何の音も聞こえない中、潮が引くように霧が薄くなっていく。
やがて、車や電車が動くのが見え始めた。
生きて活動する、いつもの街だ。
黒い影のようだったビル群も、日差しを受け煌めきを見せる。
夢から覚めたようにホッとした。
街の音が、ここまで聞こえた気がした。
絵 マシュー・カサイ「霧の街」水彩
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