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夜の海辺

夜の海が見たくなり、月夜の晩に海岸に来た。

昼間の海とは全然違う。

明るく日差しが眩しい昼の海岸も好きだが、夜はなにか不思議な魅力。

沖にはただ黒い海が広がり、不気味だ。

靴を脱いで海水に入ってみたが、深くは入れない。

何がいるかわからない。何かいるかもしれない。

何かが足に触ったらどうしよう。

ドドーンと遠くから大きな音がして、見ると沖の方で大波が岩礁にぶつかっていた。

月明かりの中、大波は怪物が暴れているように見えた。

ここの湾の中は、波も穏やかで波音も優しい。

澄み渡った夜空と黒い海はよく似合う。

群青世界。

岸辺の通りから見える明かりが夜の闇に滲む。

たいした商店街でもないのにその淡い明かりはひどく優しく、人恋しい。

まるで別の世界を見てるような遠く儚い光。

心地よい波の音を聞きながら、素足に海水の冷たさを感じる。

歩けば足の裏に砂の崩れる感触。

くすぐったいような気持ち良さ。

本当はこのまま海に入り、顔だけ水面に出してユラユラと浮かんでいたい。

大好きな水族館のクラゲのように。

月光を海面から見たらどう見えるんだろう。

海水に入っている耳には、どんな音が聞こえるんだろう。

海岸から他の人が見たらどう思うかな。

夜風が吹いて肌寒くなってきた。

波の音が少し強くなってきて、砂に埋もれた足を波が押す。

暗かった海岸の波の一部が青く光っている。

ホタルイカか、プランクトンの一種か。

淡く光りながら、楽しそうに波頭ではじける。

ここへおいでよ。

呼ばれてる。

神秘の海。

海に入ったわずかな時間で、昼間の疲れとストレスをあまり感じなくなっている。

汚れて、鈍くなっていた感覚が目覚めている。

磯の匂いが強くなった。

足をタオルで拭いながら、次に来る時は夜の海に潜ろうと思った。


絵 マシュー・カサイ「夜の海辺」水彩




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