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アウトリーチ型支援

 先日、殺人事件の傍聴をしてきました。
 概要は80歳のご主人が85歳の妻を介護に苦闘した末に自宅で絞殺し、当初から計画していた後追い自殺をやりきれない間に、連絡が取れなくなった親族からの通報で警察官が訪問して遺体を発見したというもので、その時点で被告は自分の犯行を認めています。
 所謂「老老介護」が限界を超えたことによる悲劇で、平成28年頃からほぼ目が見えない状況にあった被害者を、被告が働きながら家事全般を含めて介護(要介護1認定)していましたが、直近で急激に神経症やうつ、認知症の症状が進み、「死にたい。」と訴えることに加えて、「夫がきついことを言う。」「夫が浮気している。」「夫が財布を盗んだ。」等事実ではない妄想を付き合いのない近隣住民宅(要介護者用の公営集合住宅)を勝手に訪問しては、一方的に長時間訴えたり、徘徊して行方不明になったりするようになったとのことでした。
 共に50歳代で知り合って結婚(妻は子どもあり。夫婦間実子はなし。子どもとは交流なし。)後の夫婦仲は良好で、関係者の証言からも温厚で真面目な人柄であること。裁判資料による室内の様子から、きちんとした生活をされていたことがよく分かります。
 また必ずしも孤立していたわけでなく、ケアマネジャーに問い合わせて、入院や訪問治療についても相談していたとのことですが、本人(被害者)が乗り気でないというか、他人に世話を掛けたくないという意向が強く、被告も逡巡しているうちに、認知症が進行して、追い詰められたと感じ犯行(未遂ですが実際には心中)に至ってしまったとのことです。
 この経緯から感じるのが、年代的にも介護は家族がすべきことで他人に迷惑掛けたくない。世話になりたくない。という気持ちが強かった。ということと、介護・看護のサービスがもう少しアウトリーチ的であったら良かった。ということです。
 支援する側のスタンス(どこまで対応を進めたらいいか。)も大変難しいとは思いますが、福祉に限らず、私が関わる不登校等の教育・子育てに関しても、当事者が声を上げにくい側面が強いことを認識して、問題を抱えていても明確なアクションを起こせなかったり、サイレント状態の人たちへのアウトリーチ的支援が拡大することを強く要望します。
 ※不登校支援では小中学生約29万人の総数の内、約1/3が相談・学習支援まったくなし状態。
 大人の引きこもり問題では、親なき後の子どもの生活をどうセットしてあげられるかが、当事者(親御さん)の方の優先順位の高い課題であり、具体的には遺産の管理や資産がなくなった後の生活保護の申請支援を、起点のアクションが起こせない本人の状況を随時ケアして、適切なタイミングで実施して欲しいとの強い要望があります。
※認知症の場合には成年後見制度あるが、引きこもりは対象外
 今回の事件(公判継続中)は、もう少し早く何らかの施設に引き取って、公的介護が受けられれば回避出来た可能性が高いかと思われますし、執行猶予(現在は保釈中で妹宅に引き取られている。)にはなると思いますが、深刻な面持ちで出廷している被告人を見ると、反省していることと共に、本人も深く傷ついてしまっていることが伝わってきて、支援体制の強化、工夫が進むことが切に望まれる状況です。
 特に自分が関わる不登校や引きこもりについては、具体的な対応策を検討して提言していきたいと強く思います。

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