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佳境を迎えるインフレと相場

突然の株高


10月に入って早々、株式市場は再度リスクオンに傾き始めた。市場は、某スイス系銀行の破綻ネタを一通り味わい尽くした後は飽きたと言わんばかりに大きく上げており、荒い値動きになっている。

株高をもたらしたのはISM製造業の悪化による金利低下である。世界景気との連動という点で、台湾の輸出受注は米ISM製造業とよく連動することが知られている(下図)。足下では新型iPhoneの苦戦が聞こえており、iPhoneの販売、ひいては台湾の輸出が苦戦するならば、米国のハイテク製造業も悪化するとみられる。

やはりディスインフレ


また、ISM製造業サブインデックスの価格指数はCPI上昇率に先行して動く性質があり、モノのインフレはフェードアウトの局面にあることを印象付ける(下図)。価格指数の低下は、前投稿で書いたとおり資源価格の下落によるところが大きいとみられる。足元で原油価格は6月のピークから▲30%、CRB資源総合価格は▲20%下落している(下図)。

中古車については、いよいよ価格上昇が終盤に差し掛かっている。マンハイム中古車指数は9月半ばの時点で前年比+0.6%とすっかり正常化の様相を呈する(下図)。元々は新車の納入が遅すぎることで中古車需要が高まっていることが背景にあるが、今もって新車販売はコロナ前を回復していない(下図)。中古車価格が上がりすぎて需要が減退しているとみられ、景気に対してはネガティブである。

こうした材料を受け、米金利は素直に低下した。10年金利は一時4%をうかがう水準であったところ、足元では3.6%前後まで低下している。2年金利も同様である。英国でトラス首相が所得減税案を撤回したことも影響したとみられる。その他、UNCTADが各国中銀に利上げの一時停止を要請したこと、RBAの利上げ幅が市場予想の0.50%ではなく0.25%であったことなども重層的に影響したとみられる。

その他、中国では習近平主席が国慶節の式典にノーマスクで現れたことも、同国のゼロコロナ政策の転換への期待につながっている。

CR:雇用統計


とはいえ、インフレの本丸は賃金と家賃である。賃金については、先月の雇用統計で労働参加率が改善したことが「労働需給が緩和する(賃金が下がる)」との観測につながり金利低下を促した。コロナ・バブルで生まれたFIRE層が労働需給のバランスを崩し賃金を押し上げていることは論を待たない(下図)。8月下旬から9月末まで株式市場は大きく下げたことから、今週末の雇用統計でも労働参加率が引き続き改善していることが期待される。

週末に向かっては雇用統計を控えて期待が高まり、相場はじり高になるとみる。家計金融資産と株価(S&P500)は当然ながらよく連動しており、家計の金融資産は前述した8月-9月の下げを食らっていよいよコロナ前のトレンドに回帰するとみられる(下図)。今後は年末に向けて、労働参加率の上昇と賃金上昇率の鈍化を期待できるようになるだろう。

家賃も同様で、9月は流石にネガティブなニュースが増えてきた。住宅ローン金利は一段上昇し、住宅価格は騰勢が明確に鈍化している。これまで何度も取り上げた(そして敗れた)金利→住宅→家賃の1年ラググラフからは、家賃鈍化のサインが点灯しっぱなしである(下図)。10月のCPIにも引き続き注目である。

「そろそろ」の呪縛と結末


今後、仮にインフレ鈍化という外堀が埋まった場合、市場はFRBの態度軟化を一層期待するだろう。金融市場は荒れており、冒頭に述べた某スイス系銀行の経営危機など金融不安への煽りも出てくるなか、「FRBも能天気ではいられないはず」と市場は織り込む可能性がある。裏を返せば、FRBが頑なな態度を維持すれば、市場が荒れるリスクも両建てで高まっている。市場とFRBのチキンレースはここからが本番と言える。

とはいえ、チキンレースは相手に限界を見透かされた方の負けである。FRBの限界は、やはり米国経済を根底からは破壊できない点だろう。対する市場は無敵である。為替介入と同じく、追い払うことはできても根絶することはできない。いつの日か必ず、どのような理由であれFRBは態度を軟化する。それを見越して市場参加者は早めにジョインする。そうすると株はなかなか下がらないし、下がったら買われる。家計資産は潤沢なままで、FIRE層は戻らない。FRBの目的達成は遠のく。だからこそFRBは、自分達がアメリカなどどうでもよく、狂信的にインフレ退治に勤しんでいるように相手に信じ込ませなければならない。

両者が引かない以上、争いが無くなるには戦う理由が無くなるしかない。それこそはインフレの自律的な沈静化である。その間、両者のエネルギーがリング(経済・市場)を壊さないかは誰にも保証できない。リングを降りる人間は破滅を予言する。その後に自分がジョインすることが合理的だからである。信じられるものは何もない。全員が全員を出し抜こうとするからこそ市場の動きが、あらゆる織り込みが早くなる。市場参加者同士もチキンレースをしているからである。

FF金利の織り込みも、既に年内利上げ打ち止めを予想する向きも増えてきた。ハイプレッシャーな相場が続くが、ひとまずは年末にかけてインフレ圧旅が弱まるかどうかを確認するフェーズとなるだろう。話題の水星逆行も終わりを告げ、相場の重石となるものはあまりないように思われる。

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を勧めるものではありません。

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