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【ショートストーリー】15分の恋

繁華街に向かう電車に飛び乗った彼女がその彼に気づいたのは、電車が走り出してからだった。
向かい座席の正面に座っていた彼は、耳にイヤホンをして音楽を聴いている。
良く見ていると、ある有名なスポーツ選手に顔付きが似ている。
彼女はそのスポーツ選手の大ファンだ。
そんな思いもあって彼女は彼のことが気になっていた。
胸の辺りがザワザワする。
なんだろうこの気持ち。
彼はうつむき目を閉じて、音楽に集中している。
それがまた絵になる。
彼女はすっかり彼に惹かれていく。
そんな電車内の空間が、彼女にとっては心地よく感じられる。
彼女が繁華街に行こうと思わなければ。
彼女がこの電車に乗らなければ。
彼女がこの車両に乗らなければ。
こんな心地よい気持ちにならなかったかも知れない。
彼女はこの心地よい空間を味わう。
そして彼女は彼に恋をする。
人が誰かに心奪われるのに時間の長さは関係ない。
彼女は彼の一挙手一投足に心奪われてしまったのだ。
しかし、それはあっと言う間の出来事だった。
ある駅に電車が停車すると彼は急に立ち上がり、電車から飛び出した。
急な別れにあ然とする彼女。
涙も出ない。
時間にして15分。
恋は突然、電車のドアと共に閉ざされた。
そして彼女は横に座る僕の顔を見た。
微笑む彼女。
そう僕は彼女の夫だ。



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