「転ぶ、それから飛ぶ、泳げない、泳げる、だけど家には帰れない」
ある日Aが、道でころんだ。
誰も見ていなかったけど、
転ぶって恥ずかしい。
そう思いながら、尻についた汚れを払ったAが階段をのぼる。
さびた歩道橋の。
ここから転ぶのはどうだろう?
階段とか崖道みたいな高めの地点から落ちると、
恥ずかしいどころじゃない。
誰かいあわせれば、きっと驚いて駆けよってくるだろう。
その時そこには誰もいなかった。
結果として、Aは階段から転んだんだな。
階段からは転ぶとは言わないか。
落ちるというんだと思っていたら、
「まさか」
まさか死ぬとは。いや、まだだけど、死にそう。
頭からまっさかさまに落ちて死にそう、と思ったら、目が覚めた。
なーんだ。
夢だ。
そうだよね、夢の中って突飛な考えにとりつかれるんだよ。
情動が、覚醒時の二倍くらい濃くなるんだってさ。
ってなことを階段で考えているAだ。
忘れていた夢を思い出す場所があるんだけど、それがこの階段なんだよな。
いつも同じ段なんだ。
そこで夢からはがされる。いや、現実からはがされて夢が蘇るんだ。
そういえば昨日、
会社で一人残業をしていたら、トイレに行きたくなった。
会社の廊下にでかい水槽があって、そこに、でかい魚が泳いでるんだ。
アロワナをちいさいサメくらいにしたやつ。
怖かった。
そいつを見ていたら、
急に怖くなってきたAだ。
人は一度泳ぎを覚えたら、終生忘れないというのに、自分は忘れた気がするんだけど?
あいつを見てから、俺、もう泳げないんじゃないかと思うAだ。
引き出しの奥には昔着ていたスピードの水着がある。
近眼用のゴーグルもある。
でも、もう、泳げない。
まてよ?
会社の廊下にアロワナみたいな?
ていうか、会社に水槽なんかないじゃん。
夢だ、これも夢。
じゃ、あれも?
やたらと建物の描写が出てくる小説を読んでるんだけど。
最初は廃病院、それから廃ホテル、極めつけは廃学校。
普通の家も出てくるんだけど、
誰も住んでない。
どの建物も、すごく複雑な設計で、ぜんぜん頭の中で絵にできない。
そういうもんなのか?
小説ってみんなちゃんと絵にできてますか?
俺、誰に話しかけてんの?と思うAだ。
建物がわかんないと、読み終われない。
本ってそういう仕組みなの?
適当な建物頭に描いて、てきとーに読んでたら、
うわ、なにこの人。
飛んでる。
大丈夫です。私が飛びながら全体像を見て行きますって、
さっきの俺が、階段から地べたに落下することなく
すべるように飛んでる。
サメみたいなアロワナが泳いでるんじゃなくて、さっきの俺が泳いでる。
水の中じゃなくて、頭の中なら泳げますからって、意味不明な俺の考えた家の中を泳いでるのを見ている夢を見ているAがいる、
階段の途中から。
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