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不可解(再)-”再演”という名の脱構築と不完全で未完成な魔法-

 2020年3月23日、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大の状況に伴い無観客でZepp DiverCity TOKYOにて開催された”不可解(再)”。以下、そのライブレポートもどきになります。例によって個人的な備忘録として私の感じたことをつらつらと書き出しただけのものです。

はじめに

 前回の”不可解”では、CFに参加して”共犯者”とはなれたもののチケットを取ることはできず現地参戦は叶わなかった私が、今回こそはと現地参戦を楽しみにしていた不可解(再)が無観客という形になったことは、率直に言えばとても残念でした。

 しかしながら、運営さんや花譜ちゃん、そして今回のイベントに携わった、私たちには見えない多くの関係各所の方々が悩みぬいて、手を尽くして今回のような形で開催をして頂いたことにまずは感謝を申し上げたいと思います。本当に素晴らしいライブをありがとうございました。

夏のあの日の”再演”

 3月23日当日、朝日新聞を買って広告のAR花譜ちゃんを一通り楽しんだところにSAVE THE FUKAKAIのライブグッズも届き、Youtubeの配信開始までの間、8月のライブ映像を見返したりなどしていると、Twitterに続々と今回のライブ映像のクリエイターのツイートや、イラストレーターによる”公式ファンアート”が上がってきました。「ああ、まさに8月の”再演”だな」、と徐々にテンションの高まりを感じました。

 17時50分になるとYoutubeにてこれまでのオリジナル曲MVの一挙配信が行われ、ライブ配信前には一万を超える視聴者がこれまでの花譜ちゃんの歩みを振り返りました。普段花譜ちゃんをあまり見ていない人や初めて歌を聴いたという人がコメントに見られたのも嬉しいひと時でした。

そして花譜ちゃんのこのツイート。今日から明日の世界を変えるよ。

”再演”という名の”再構築”(あるいは脱構築)

 19時から会場の映像が配信され、暗闇のなかでリストやドビュッシー、ラフマニノフ等の落ち着いたピアノ曲が流れる中、多くの観測者が固唾を飲んでその時を待ちわびたことでしょう。ライブに先立って、同じ神椿スタジオのメンバーヰ世界情緒ちゃんによるアナウンスが入りました。「花譜ちゃん、頑張ってね」と、とても可愛いらしい声でエールを送って、いよいよライブが開幕。

 冒頭、天体の運行のような円運動の演出の中、ライブ直前に公開された新衣装”青雀”お披露目動画でも語られていたポエトリーが”The End Of Prologue”の音楽にのせて朗読されました。

 「私は信念を持って歩き出す。君はどうする?」という花譜ちゃんからの問いかけをどう受け止めたでしょうか。”深淵を覗く時、深淵もまたあなたを覗いているのだ”なんていうニーチェの言葉がありますが、私たちが花譜を観測するとき、花譜もまたあの三色の瞳でこちらを見つめ、Qを投げかけているのです。”青雀”姿の少女降臨。再演であって再演でない。花譜第2章を予感させ、”不可解(再)”は始まりました。

オリジナル曲

 まずは糸・忘れてしまえ・雛鳥・心臓と絡繰・エリカ・未確認少女進行形の順で曲が披露されました。γ版GuanoさんRemixのエリカ以外は新しくアレンジされており、違う曲を聞いているような新鮮さがありました。特に雛鳥と未確認少女進行形のアレンジがとても特徴的で印象に残っています。忘れてしまえのオシャレアレンジもよかった。花譜ちゃんの声にも力強さがあり、今回も”不可解”でおなじみの映像演出、リリックモーショングラフィックスが大変迫力があり洗練されていました。

 給水タイム&MC。多くの観測者が”助かった”ようです。先ほどまで凄い歌声を披露していたと思えないほど、相変らずたどたどしく話す彼女はひたすらに等身大で、どこにでもいる一人の少女でした。ギャップがすごい。どこにでもいて、どこにもいない。まさしく彼女はそういう存在だと認識させられます。

私の好きな歌を歌うよ

 ここからはカバー曲のコーナー。”綺麗”・”愛の才能”・”美しい棘”。いずれも前回とは違う曲で驚きました。再演とは。”綺麗”は曲調もキラキラとした映像演出もまさにとてもキレイで、しっとりした花譜ちゃんの歌声に聞き入りました。”愛の才能”はトガった曲調と歌詞の歌でした。私、花譜ちゃんのこういう攻めた歌が大好きです。途中に入る「アゥ!」が最高でした。続いて”美しい棘”。GLIM SPANKYというバンドを初めて知りましたが、とてもいい歌ですね。エモいロックは花譜ちゃんの歌声にとてもよく合う。

オリジナル曲(再)

 オリジナル曲の展開。”祭壇”・”魔女”・”夜が降り止む前に”・”quiz”・”夜行バスにて”・”過去を喰らう”・”Re:HEROINES”という順で歌われました。

 祭壇・魔女はやはり二つで一つ。祭壇は8月の不可解のほかに聴く機会も音源もなく、実に半年ぶりの披露となりました。VTuberという存在について歌った歌。同時代を生きる多くの”魂”への賛歌といえる力強い歌です。そして魔女へ。前回は不穏さや神秘性を感じさせる曲のつなぎがとても特徴的でしたが、今回の祭壇・魔女は大沼パセリさんによる新たなRemixで洗練されておしゃれな印象でした。また、今回もオクソラケイタさんの背景イラストがとても象徴的でした。

 そして、魔女の中盤、突然姿を現した春猿火ちゃん。しかも初披露となる3D。同じ神椿アーティストとのデュエット、ありえるとは思っていましたがやはり驚きました。性質の違う二つの歌声の共鳴、とてもテンションが上がりました。春ちゃんの動きがカッコ良かった。

 夜が降り止む前に。samayuzameさんRemixの深い闇と星の輝きを感じさせる曲に落ち着いた花譜ちゃんの歌声。quizは笹川真央Remix。夜行バスにて、過去を喰らう、Re:HEROINSは新アレンジ。生バンドの演奏はやっぱり良い。今回もバンドメンバーは不可解と同じ面々でした。とても楽しそうに演奏される姿が印象的でした。過去を喰らうからRe:HEROINSへのつなぎが大変カッコ良かったです。

 そして画面が暗転し終了(ではないことを観測者は知っている)。本来ならここでお決まりのアンコールの声が会場を満たしたことでしょう。花譜ちゃんに直接声を届けられなかったことはやはり口惜しい。ニコ生では「アンコール」コメントが画面を埋めました。

 そして御伽噺。8月のライブでは多くの観客が面食らい、空気がガラリと変わって緊張感に包まれた光景が思い起こされます。むしろここからが”不可解”の本番。”観測”α・β・γに付属された御伽噺第零幕、第一幕、第二幕がまとめられたような内容だったように思います。選ばれた特別な子供たちはどうなるのか。裏切り者のタイガーリリーとは。今後も展開していくかはわかりませんが非常に気になるストーリーです。

 そして東京ゲゲゲイさんの神様。不可解の時と同じ流れを感じさせます。御伽噺と何か関係はあるのだろうか。

 花譜ちゃんによるMC。カンザキイオリさんは優しいお兄さん。好きなことについて語る時の花譜ちゃん、君って語彙力全然ないんだね。

 命に嫌われている。不可解でも歌われたカンザキイオリさんのこの特別な歌を、なんとsamayuzameさんのピアノ演奏で。美しい旋律と、8月のときの振り絞るような歌い方とはまた違った力強い「生きろ」が記憶に残っています。

 不可解、そして花になる。ライブの終わりを感じさせる、これも二つで一つの組み合わせ。8月のライブではこれまでの集大成として歌われたこの2曲。あの時よりさらに自分の歌としてモノにしているように感じました。

 最後にもう一曲。名前と花譜&理芽の組み合わせはライブグッズで既に明らかになってはいたものの、ここで初披露となった”宣戦”。オクソラケイタさんの美麗ビジュアル、魔女・祭壇の系譜であることは一目瞭然。「私達は魔女だ。これは魔法だ。」魔女三部作としてCD出すのだろうか。出してほしい。「フィクション」という単語も印象的でした。制服姿で並んで歌う二人に尊さを感じていたら、その後の二人の会話もとても尊かった。花譜ちゃんの「きゃあ」が可愛くてとても女子高生していました。

 不可解(再)は再演であって再演でない。今回は惜しくも花譜ちゃんの目の前には観客はいなかったけれど、8月にはいなかった神椿の仲間がいた。8月の不可解以降に増えたファンもたくさんいます。視聴媒体が分散していたので数は分かりませんが、またしても一位まで上がり続けたTwitterトレンドから、今回もきっと多くの人々に観測をされたことでしょう。感染症関連の剣呑じゃないワードを押しのけてトレンド一位に上がっていく様子には、音楽の、クリエイティブの可能性や力を感じさせました。

不可解な"魔法"で世界に抗う魔女

 アンコール前、最後の曲としてRe:HEROINSが歌われたときはちょっと意外に感じました。”再”と”Re”を掛けているのかなとも思った。しかし公演の最後で宣戦が歌われたことで、私はそこに今回の公演で示したい意図を、思想を感じました。あるいは思い込みかもしれないけれど、個人の感想なので容赦されたい。

 Re:HEROINSも、祭壇・魔女の流れを汲む宣戦も、閉塞的な世界に対する戦いを、あるいは抗う意思を示した歌。これらの曲を最後に持ってきたことに一つの思想を感じざるを得ない。偶然か必然かは分かりませんが、昨今の現実世界で広がる閉塞的な状況に、”音楽”という、アートとという、あるいはクリエイティブという魔法で立ち向かっていくのだという花譜の、神椿の強い意思表示なのではないかと私は汲み取ったのです。

 プロデューサーPIEDPIER氏は今回のライブの後にこのような感想を述べました。

 これは表現者の宿命といえるかもしれません。その時その時のベストを尽くしても、もっとやれた、まだまだ足りないと感じてしまう。それは仮にこのライブが通常通り観客を入れて行われていたとして、もそうだったのだろうと思います。

 それでも、私はそれこそが”人間の”作り上げるアートというものの楽しみなのだと思います。技術的な革新性や”バーチャル”という合言葉はどこまで行っても手段であって、実態は魂を込めて生身の人間が生み出す、「不安定で、未完成な魔法」です。私はその魔法を信じたい。不完全な人間といういきものの力を信じています。

Cast a spell on the world

 エンドロール。8月のライブ開催のためのクラウドファンディング参加者(=共犯者)のリストが今回も流れました。どうしてもAで始まるあの方に目が行ってしまう。BGMとして流れたのは新しいカバー曲でした。電話をするよ・宙ぶらりん・ふめつのこころの三曲との事。

 最後に告知として3.5D でのdocomoとのコラボレーション展と新衣装”隼”、福岡・名古屋でのPARCO地方巡回展、さらには不可解2という次なる展開も打ち出されました。相変らず怒涛の情報の洪水。少し流れた新曲「戸惑いテレパシー」もとても楽しみです。

 依然として、現実を取り巻く状況はアーティスト・クリエイティブ界隈にとって厳しく、先行きは決して明るくありません。そんな中でもこのライブを実現してくれた神椿を、懸命に歌ってくれた花譜ちゃんを、圧倒的なクリエイティブの力を私は信じています。

 音楽という魔法の力で、この残念な世界に抗い戦い続けるその姿をこれからも応援し続けたい。花譜という、あるいは理芽や春猿火、ヰ世界情緒という神椿の魔女たちの新たな魔法、紡いでいく新たな物語が私は楽しみでなりません。最後に、改めて今回のライブにかかわった全ての方々に最大限の称賛と敬意を。花譜ちゃん、お疲れさまでした。

 その魔法(Fiction)が明日の世界を変え、社会に、より多くの人々の心に希望を齎すことを信じて。

追記

 個人的に、今回のライブに花を添える一員となれたことも大変嬉しく思います。企画者、生花業者の方々にも感謝申し上げます。

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