【詩】涙になりたい

きみの涙になりたいと思った。きみが本当に泣きたいとき、泣けないようにするため、ぼくはきみの涙になりたいと思った。
物語には涙が必要で、涙のない物語は多くの人が退屈するものだから、だからきっと、涙を流せないきみの物語はいつしか消滅し、そして、きみはどんなに悲しくても、涙を流せず、鏡に泣き顔が映ることもないまま、年老いて消えていき、ぼくもまたきみのなかで綺麗なまま消えていく。そうして、ぼくだけがきみの溜め続けた涙の温度を知っている。
そんな存在にぼくはなりたい、いや、なりたかった。あのとき見たきみの泣き顔は、多くの人からありとあらゆるものを奪っていった。他のどんな人の表情も霞んでしまうくらいに美しかった。だから、ぼくはそれをぼくだけのものにしたいと思った。ぼくだけがその顔を知っていたいと思った。どうしようもなくそう思っていた。
ああ、ぼくはきみの涙になりたかった。
きみの泣き顔は、今や多くの人を魅了する物語です。

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