【詩】崩壊

壊れてしまいそう、ぼくは小声で呟くようにそう言うのだけれど、ただそれだけで、ぼくの声は誰にも届かず消えていく。消えていってぼくはほっと息を吐くようにまた呟き続ける。「壊れるほどのものをあなたは抱えているつもりなの?」誰かにそう言われるのが怖くて、自分がなにもない空っぽな存在なのだと言い当てられるのが怖くて、自分の身体の60パーセントが水でできている、そんな当たり前の事実さえもぼくのことを糾弾しているような気がした。
でも、きみたちの身体も同じような造りをしてるはずなのに、どうしてこんなに違うんだろう。きみたちが刺されたら、死んだ証として、きっと数多の血が出るけれど、ぼくが刺されたらなんとなく血なんて出てこないかもしれないと思った。血どころか刺しても何も出てこない、そんな馬鹿げた考えも誰にも伝わらずどこかに消えていって、そのときぼくが落ち込んでいるように見えたのか、優しい人がぼくに自分を信じようと言った。
信じよう。なにを?綺麗に壊れることすらできないぼくが、どうしようもなく空っぽなぼくが、ぼく自身のなにを信じればいい?それでも「信じろ教」は今日も盛んに活動を続けていて、信じれば必ず夢は叶うと道路を歩きながら叫んでいて、太陽が彼らを照らすと、ぼくは闊歩する彼らの影に隠れてしまうのだった。
いつしか、きみたちが崩壊する横で、ぼくは腐敗する。崩壊できないぼくはまた誰にも聞こえない声で壊れてしまいそうと呟いて、綺麗に崩壊する自分を妄想していた。



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