【詩】慟哭

泣き方の分からないきみが、顔いっぱいに水を被ったり、しきりに瞼を開いたり閉じたりしてみたり、痛くなりそうなくらいその綺麗な瞳をこすってみたり、唐突に大声を上げてみたりする、けれど、それでも一向にきみの瞳から涙が溢れることはなくて、そんなきみはとてつもなく苦しそうに地面に蹲っていた。
蹲っているきみが言う。涙なんて所詮ただの水滴だと。一方で、人一倍、その涙の透明さに恋焦がれながら。
自分の泣いている姿を、誰かから疎ましいと思われたかった。
だって、他人の感情なんてどうしようもなく疎ましいものだから。感情豊かな存在なんてどうしようもなく鬱陶しい存在だから。そしてそれはわたしにとって一種の存在証明で、だからその鬱陶しい存在にわたしはなりたかった、ときみは思っているけれど、言わない、誰にも言わない、きみは何も言わないままただずっと俯いている。笑顔、歪んだ顔、泣き顔、そのすべてを潰してやりたい、感情は、感情を表に出せた人のものだなんてわたしは認めない、涙があなたたちの悲しみのためだけに使われるのが許せない、あなたたちは知らないだろうけど、わたしも悲しむときは悲しむから、だからさ、わたしが悲しむために、誰か流すための涙をくれよ
均された土みたいに平板な表情できみはそう叫び続けている。声にならない声で。それがきみなりの慟哭なのだと誰にも気づかれないまま。


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