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小説まとめ

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小説のまとめです。遠くのなにかを見つめているみたいな小説を書きます。
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#散文

【掌編小説】昼、喫茶店にて青春を捨てる

 休日に当てもなく街中を歩いていると、わたしは偶然ひとつの喫茶店を見つけて、特にすることもなかったわたしはそのまま店内に入っていった。外は煌びやかな太陽が今も燦々と照り付けているはずなのに、店内はその外の風景がまるで嘘であるかのように仄暗い雰囲気を醸し出していた。辺りを見渡すと店内にいる客はわたしひとりだけで、あとはカウンターのすぐ近くにひとり店主が佇んでいるだけだった。
 わたしはそのとき、やっ

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【掌編小説】夜、ベランダにて回想

 夜になるとぼくはひとりでベランダに出る。半袖で出られるくらいの外気が既に辺りを漂っていて、ああ、もうすぐ夏がやってくるのだと、ぼくは自らの肌をもって実感した。けれども季節というのは、所詮、ぼくにとってはただの付属品でしかないのだ。だって、夜になってベランダに出ると、必ず彼がいるから。彼がいる間、いくら年月が経とうが、いくら季節が巡ろうが、きっとぼくは十九歳のままなのだ。
 風が吹き抜けて、木々に

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