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助詞の「に・からに・のみ・ばかり・だに・すら・さへ」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その56 ★百姓夫婦、野良に出て 昼頃たいくつして休むうちに、かかがうちももが見え、畑中におしたをし、やりてしまひ、拭かふとするに、紙がなし。★わがための一日だになし寒雀★而して蠅叩さへ新しき

助詞の「に・からに・のみ・ばかり・だに・すら・さへ」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。
古文単語 その56

★百姓夫婦、野良に出て 昼頃たいくつして休むうちに、かかがうちももが見え、畑中におしたをし、やつてしまひ、拭かふとするに、紙がなし。

★わがための一日だになし寒雀(田に餌がなくなる冬は、街中に餌を求めて集まる)

★而して蠅叩さへ新しき(何もかもが新しい、蠅叩きまでも新しい、というのは新婚)




○ 夕されば 門田(かどた)の稲葉 おとづれて 葦のまろやに 秋風ぞ吹く      金葉集一八三

(格助詞に・作用する場所をそこだと指定)
体言に付いて、動作・作用の(1)場所、(2)目標、(3)時、(4)比較の基準を示す

作者は藤原公任と並び称されるマルチタレントで和歌を詠み、漢詩を作り。音楽を演奏する、全てが一流の腕前でした。
夕されば(四段さる已然形プラスば・さる→時間が到来する・やってくる・去って行く・夕方になると)
かどたの稲葉(家の前の田の稲の葉に)
おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く(あしぶきの田舎の家・粗末な小屋・茅葺の屋根の形が丸い感じがする・全部を葦でふいた質素な家・格助詞に→吹くという動作はどの場所なのかをあらわす・稲の葉にそよそよと吹いていた風が、続いて私の家の中を吹き抜けていくことだ)

○ 春の夜の 夢ばかりなる 手枕(たまくら)に  かひなく立たむ 名こそをしけれ

  千載集九六一 

(格助詞に・原因理由ノタメニ)

参考 家に至りて 門(かど)に入るに月あかければ、いとよくありさま見ゆ。      土佐日記 二月十六日(接続助詞に・スルト)  家に到着して、門を入ると、月が明るいので、たいそうよく(庭の)ようすが見える。

参考 せむ方(かた)もなくて、ただ泣きに泣きけり。 

       
伊勢物語四十一
(接続助詞に・強意添加) 
 なすべき方法もなくて、おおいに泣くばかりであった。に→添加の意味をあらわし、強めている。

○ 八重むぐら 茂れる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり 


     拾遺集一四〇 

(接続助詞に・ノデ)

八重むぐら(幾重にも生い茂っている雑草の葎・荒れ果てた屋敷などに茂っている)
茂れる宿の(四段茂る已然形プラス完了存続り連体形プラス宿(住まい)雑草がぼうぼうと茂っているこの宿が)
さびしきに(に→格助詞なら、寂しいところに 原因理由の接続助詞なら、さびしいので 逆接の接続助詞なら、さびしいのに 三通りに訳はできる)
人こそ見えね(係助詞こそプラス下二段見ゆ未然形プラス打ち消し「ず」已然形・こその結びで下に続くので逆接・人は見えないけれど・誰一人訪れないけれど)
秋は来にけり(カ変く連用形プラス完了ぬ連用形プラス過去詠嘆けり終止形・秋だけは、かわらずに、さすがにやってきたなあ)

○ 吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を あらしと言ふらむ

      古今集二四九

(接続助詞からに・スルトスグ)連体形につく。「~だけで」といった意、あるいは「~と共に」「~と同時に」といった意

身分がそれほど高くない作者、文屋康秀の誘いに、絶世の美女小野小町が乗ったという逸話が残っています。こういう漢字の謎解きのような和歌が当時、流行したことがあったようです。木ごとに咲く花が梅とかね。
吹くからに(格助詞からプラス接続助詞に・スルト同時ニ、スルトスグニ・風が吹くやいなや)
秋のくさきのしをるれば(下二段しをる已然形プラスば・折れたわむ、しおれ弱る・しおれるので)
むべ(副詞・上の句で示された根拠を踏まえ「なるほど、だから山風を嵐と言うのか」と理由を推理)山風をあらしと言ふらむ(四段言ふ終止形プラス現在推量らむ・言うのであろう)

○わびしさを同じ心と聞くからに我が身をすてて君ぞかなしき


後撰集595

切ない気持ちでいることは、貴方も私も「同じ心」です。そう聞いいただけで、我が身など捨てて顧みません。ただ貴方のことがいとしくてなりません

○ 来(こ)めやとは 思ふものから ひぐらしの 鳴く夕暮れは 立ち待たれつつ 

     古今集七七二

 (ものから逆接ケレドモ)連体形を承けて、逆接の意をあらわす。「~ではあるが」「~ものの」

僧正遍昭の作品です。「あまつかぜ 雲の通い路 吹きとぢよ」 の歌の作者です。桓武天皇の孫ですが出家して延暦寺の僧になりました。かなりの美男子で光源氏のモデルとも言われていました。 来めやとは(カ変く未然形プラス推量む已然形プラス係助詞や反語・来るだろうか、いや来はしまい)
思ふものから(接続助詞ものから逆接・と思うのだけれど)
ひぐらしの鳴く夕暮れは(格助詞の主格・ひぐらしが鳴く夕暮れは・カナカナというひぐらしの声が はっきりしてくると 人恋しい、寂しい秋が来る。)
立ち待たれつつ(立ち待つ・立ったまま待つ・自発る連用形プラス接続助詞つつ継続・自然とあなたの訪れが立ち待たれてしまいます)

○ 待つ人も 来ぬものゆゑに うぐいすの 鳴きつる花を 折りてけるかな 

     古今集一〇〇 

(ものゆゑ順接ノデ逆接ノニ)連体形を承け、順接(理由・原因「~ので・~のだから」)・逆接(ものなのに)両方の意をあらわす。

なぜ折ったのか、いらいらしたのか、本当にそうかなあとも思える歌です。「ヒトク」と鳴き声が聞こえるという説もあります。詠み人知らずの歌です。 来ぬものゆゑに(ものゆゑに→逆接で訳をすると・待っていた人も来ないのに、うぐいすが折ってくれるなと鳴いて惜しんで鳴いていた花の枝を(その人に見せようと)折ってしまったことよ。
ものゆゑに→順接で訳をすると・待っている人が来ないので、ウグイスが楽しそうに鳴いていた梅の枝を折った。こうして花を飾ってもウグイスのようにあの人が来てくれるわけもない。ウグイスに意地悪をしてみたかっただけなのか
鳴きつる花を 折りてけるかな(四段鳴く連用形プラス完了つ連体形・折りてけるかな→四段折る連用形プラス完了つ連用形プラス過去詠嘆けり連体形プラス終助詞かな詠嘆)

○ 思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり 

  
  千載集八一七 

 (ものを順接ノダカラ・ノニナア逆接ノダケレド)連体形に接続。逆接をあらわすことが多いが、順接をあらわすこともある。

思ひわび(つれない相手に思い悩む気持ち)さても(さ・あり・ても・そうであっても)
命はあるものを(「は」は、他のものと区別する係助詞・「ものを」は逆接の接続助詞・「涙」に対して「命は死なずに残っているのに」憂きに(形容詞「憂し」・連体形・思いがかなわなくてつらい)堪へぬは(堪ふ・未然形・「こらえる」・打消の助動詞「ず」・連体形・こらえられないのは)涙なりけり(「なり」・断定の助動詞・連用形・「けり」・過去詠嘆・涙であったんだなあ)

つれない人のことを思い嘆きながら、絶えてしまうかと思った命はまだあるというのに、辛さに絶えきれずに流れてくるのは涙だったよ。

○ うつせみの 世の人ことの しげければ 忘れぬものの 離(か)れぬべらなり

    古今集七一六

(ものの順接ノニナア逆接ノダケレド)連体形接続、順接・逆接の意をあらわす。「~のになあ」「~のであるが」「~ものながら」

蝉の声が 「しげし」を連想させ、「しげし」から雑草などが生い茂げる様子を連想させ、さらに「枯る・離る」へと続く。なかなか工夫されている。「うつせみの」が枕詞とだけ考えると気づかないかもしれない。
うつせみの世の人ことのしげければ(枕詞うつせみの・意味は現世あるいは,現世の人→「世」「命」「かれる身」「人」にかかる・形容詞しげし已然形プラスば・世間の人のうわさがうるさいので)
忘れぬものの(下二段忘る未然形プラス打ち消し「ず」連体形プラス接続助詞ものの逆接・お前を忘れたわけではないけれど)
かれぬべらなり(下二段離る未然形プラス打ち消し「ず」連体形プラスべらなり・べらなり→べし)の語幹「ベ」に、接尾語「ら」、断定の助動詞「なり」が接続してできた。必然的にそうなるものであるという意味。「~しそうだ」「~するものだそうな」「~するに決まっている」などの意・二人の間は離れてしまいそうだ・枯れてしまいそうだ)

○ 秋をおきて 時こそありけれ 菊の花 移ろふからに 色のまされば 


    古今集二七九 

からに(スルト同時ニ)連体形接続、「~だけで」といった意、あるいは「~と共に」「~と同時に」といった意をあらわす。

作者は歌物語『平中物語』の主人公とされており、美男子で、人妻、娘を問わず、追いかけられ、色好みとしても名高い。皇族であるが臣下に下り、平貞文と名乗った。宇多法皇に菊の花とともに、この歌を奉った。
秋をおきて(秋以外にも・気が付いてみると秋以外にも)
時こそありけれ菊の花(時こそありけれ・時があったのだ・盛りを過ぎかけた白菊がほのかに紫がかる様子を優美なものとして平安時代に愛好され「一年に二度の盛りを迎える花」「冬枯れの直前まで美しく咲く花」と称えられた・盛りの時があったのですね、菊の花は。)
移ろふからに色のまされば(色が変わると同時に、その美しさがいっそうましたのですから。白菊は萎れてから紅や紫に変色するらしい。譲位後ますます盛んな力をもった宇多法皇を喩え、讃美した歌。

○ 吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を あらしと言ふらむ  

    古今集二四九

からに(チョット~ダケデ)
吹くからに(「からに」するとすぐに・ちょっと吹くだけで)
しをるれば「しをる」草木がぐったりする様子。「ば」は、已然形プラスば・ので・すると。
むべなり(なるほど・もっともである・「らむ」を用いて上の句を根拠に、だから山風を嵐というのだろうと、理由を推量している。)
山風 山から吹き下ろす風。
嵐といふらむ 「嵐」は「荒し」との掛調・秋の草木を荒らし枯れさせるので「嵐」というとする。「山」「風」の文字を合わせると「嵐」になる。らむ・現在推量

山からの風が吹くとすぐに秋の草木がしおれてしまうので、なるほどそれで山から吹く風を嵐という

○ 風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな

  
    詞花集二一〇 

(副助詞のみ限定ダケ)そのことだけに限定。「~だけ」「~ばかり」。強調ともなる。語源は「の身」で、「それ以外の何物でもない」

作者は旅が好きで東北から九州まで出かけたそうです。友人が東北に左遷されたのを悲しみ、自分もついていきました。その東北の地で自分の子どもを殺されるという悲劇に作者は見舞われます。
風をいたみ岩打つ波の(を~み・原因理由・間投助詞をプラス形容詞いたし語幹プラス接尾語み・いたし(甚だしい・ひどい)風が激しいので、岩にあたる波のように)
おのれのみ(副助詞のみ限定・私だけが心乱れて相手は乱れていない)
くだけてものを思ふころかな(下二段くだく連用形プラス接続助詞手→波が岩に当たって砕ける・自分の心が思い乱れて悩んでいる・ものを思ふ(恋に苦しむ)終助詞かな詠嘆・恋に思い悩むこの頃であることよ)

○ 涙川 身投ぐばかりの 淵はあれど 氷とけねば 行くかたもなし 

 
   後撰集四九四

 
(副助詞ばかり程度・限度グライ・ホド・ダケ)語源は動詞「計る・はかる」この程度であると見積もる意。

涙川 身投ぐばかりの 淵はあれど(ばかり→はかる・計る・量る・可能か不可能かを推測し定めようとするときの不安・危惧をあらわす・~スレバデキルカモシレナイ→身投げをすれば自殺をすることが出来るかもしれない・泣き続けて涙が深い水たまりになった・私の床を流れる涙川は、身を投げるほど深い淵はあるけれど)
氷とけねば((下二段とく未然形プラス打ち消し「ず」已然形プラスば・溶けないので・寒い寝室では涙に濡れた両袖が凍りついてしまっている・冷たい貴方を待ち続けて何ヶ月が過ぎただろうか・氷ならぬ貴方の心が解けないので・うちとけてくれないので)
行くかたもなし(どこにも行きようがないのだ。向かおうとする目的の貴方の面影さえ消えそうになっている)

★恋草は しげる雨夜の 道だにも あらぬかたへや 迷ひ入るらむ



○ 恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ  

    後拾遺集八一五

(副助詞だに重い内容を類推サエ)最低限・最小限のものごととして提示・だにあるを・だにあるものを「~ですらそうなのに」あることを例として提示し、さらに程度のひどい有様を暗示する語法

作者は和泉式部や赤染衛門と並び称される才能ある女流歌人です。結婚しますが、すぐ別れ、その後、数多くの男性と恋愛を繰り返します。
恨みわび(上二段うらみわぶ連用形・冷淡なあなたを恨み嘆いて)
ほさぬ袖だにあるものを(四段干す未然形プラス打ち消し「ず」連体形プラス袖プラス副助詞だに・軽い内容→袖が朽ちる・あまりにも泣きすぎたため、干すことなく涙で袖まで腐ってぼろぼろになっている状態の袖でさえあるのだけれど・終助詞ものをノニナア・ノダケレド)
恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ(重い内容→世間からあんな男と恋をして、しかも捨てられた女であるとの評判が立ち、自分の名前がけがされることがくやしい・恋プラス格助詞に原因(ノタメニ)プラス上二段くつ連用形プラス完了ぬ未然形プラス推量む連体形・恋のためにきっと朽ちるにちがいない・形容詞惜し已然形・こその結び)

○ かくと だに  えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを      

後拾遺集六一二 

かくとだに(かく」は「このように」「だに」は「~すら」とか「~さえ」「かく」は「あなたを愛していること」「このように(あなたをお慕いしていると)さえも」
★「だに・すら」はサエと訳し「さへ」はマデモと訳す。
えやはいぶきの(「え」は「得(う・手に入れる)」の連体形で、反語の係助詞「やは」と合わせて不可能の意味(え~ず)「えやは~いふ」で「言うことができない」「いふ」を「伊吹(いぶき)」と掛ける掛詞。「伊吹山」は岐阜県と滋賀県の境にある山)
さしもぐさ(ヨモギのことで、灸に使うもぐさの原料・伊吹山の名物)
さしも知らじな(「さ」はそれ・そのよう・「しも」は強意「な」は詠嘆の間投助詞・「それほどまでとは知らないでしょう」)
もゆるおもひを(「燃えるようなこの想いを」「ひ・火」掛詞「さしも草」「燃ゆる」「火」は縁語)

せめて、こんなに私が愛しているとだけでもあなたに言いたいのですが、言えません。伊吹山のさしも草ではないけれど、それほどまでとはご存知ないでしょう。燃えるこの想いを。

○ こと問はぬ 木すら妹(いも)と兄(せ) ありと言ふを ただひとり子にあるが苦しさ


万葉集一〇〇七 

(副助詞すら・重い内容を類推サエ)最低限の例、あるいは極端な例として提示

作者は天智天皇の一族で、東大寺の大仏造営の指揮官でした。一人っ子であったようで、友人家持に寂しさをもらしていたようです
こと問はぬ(四段問ふ未然形プラス打ち消し「ず」連体形・物を言わない)
木すらいもとせありと言ふを(いも→自分のの姉や妹・愛する女性
せ→自分の兄や弟・愛する男性 接続助詞をノニ・ノデ・スルト 木でさえも姉妹や兄弟があるというのに)
ただひとり子に あるが苦しさ(体言止め詠嘆・全くの独り子であるコトが辛いことですよ)

★あをのけになりて、いま湯上がりの湯文字さへ無き肌を、ひきひろげたる桜色の美しさ。



○ 夜もすがら もの思ふころは 明けやらで ねやのひまさへ つれなかりけり

     千載集七六五

 (副助詞さへ添加ソノ上~マデモ)現状にさらに添加されること。語源は動詞の「添ふ・添へ」

作者は十七歳で東大寺の僧侶となりました。祖父、父、本人ともに歌に優れ、三人とも百人一首に採用されています。方丈記で有名な鴨長明は、この和歌の作者に歌を学んだと言われています。
夜もすがら(~すがら→最初から最後までずっと・一晩中・夜通し・ひねもす→朝から晩まで)
もの思ふころは(冷たい恋人のことを思い悩むときは)
明けやらで(四段明けやる(すっかり明ける)未然形プラスずして・早く夜が明けて欲しいとおもうのに、夜はなかなか明け切れないで)
ねやのひま さへ つれなかりけり(閨→寝室・ひま→隙間・形容詞つれなし連用形プラス過去詠嘆けり終止形・つれないのはあなただけではなく、あの人を待つはずの寝間の板戸のすきまさえ、明るくならず私の気持ちを分かってはくれないことよ。)

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