他力と仕組み化の法則~がんばるだけでは続かない~
研修を研修で終わらせずに、実践して習慣化させるには?
この問題を解決する法則をみつけました。
「今日の研修はいいことを聞いた。すごく学びになったから、明日からがんばろう!」と意気揚々と帰宅するも、翌日に普段の業務に戻ると、昨日の意気込みはどこへやら、いつも通りの一日を過ごしてしまった。明日こそは…と思いながらも、始めるきっかけがつかめず、1ヶ月経った頃には研修内容もおぼろげになっている。
この記事を読んでいるあなたも、そんな経験を何度もしたことがあるでしょう。
学んでも実践しないのは、自然なこと
「どうやったら研修で学んだことを実践し、それを習慣にすることができるか」という問いに答える前に、「どうして研修で学んだことを実践できず、やり始めても継続できないのか」という問題について、知っていただきたいと思います。
答えは、「人は変化を好まない」「人は楽な方を選ぶ」ため、実践しないのが自然なことだからです。
新しいことにすぐに飛びつく人はほとんどいません。多くの人は周りの動きを見て、”良さそう”と思ってから行動します。これはすごく自然なことで、最初に変化するのはリスクがあるからです。
たとえば、ほとんどの人は、山に生えてる見たこともないキノコをいきなり食べたりしません。毒があるかもしれないので。
だけど、スーパーで売っているキノコは何の疑いもなく食べます。それは毒がないと分かっているからです。
では、毒キノコに毒があると最初に気づいた人は、どのようにして気づいたのでしょう?
現代であれば、食べてみなくても科学的な分析で毒を検出することができますが、おそらく昔は、好奇心旺盛な(無鉄砲な)人が試しに食べて、毒にあたって苦しんだことが想像できます。
それを見ていた周りの人たちは2つのことを学習します。
・このキノコは毒がある
・知らないものを食べてはいけない(新しいことをしてはいけない)
こうやって人間は知恵を蓄えながら、生物として進化してきました。
新しいことをする(変化する)のは、自らの生命の危機を招く愚かな行為として、本能レベルで僕たちの身に沁みついているのです。
もう一つの理由、「人は自然体でいると楽な方に流れる」については、皆さんも身に覚えがありすぎるぐらいあるでしょう。
何もすることがない、何のプレッシャーもない状態では、人は楽な方、楽な方へと流れていきます。
自然に楽な方に流れることで、僕たちは無意識に緊張から解放され、自動的に心身を健康な状態へと回復させています。常にストレスにさらされている人が病気になってしまうのは、もともと備わっている「自然に楽な方へ流れる機能」にエラーが起きるからです。
つまり、楽な方に流れることも、人間として正常な反応なのです。
意識 VS 本能
自然に身を委ねていたら、自ら変化のための行動をせず、楽な方だけを選ぶことになります。
しかし、人は変化をして成長し、チャレンジをして成功し、もっとしあわせになりたいという貪欲さも持ち合わせています。
だから「がんばる」わけです。
研修の帰り道で「明日からがんばろう」という意識が生まれた時に、一人の人間の中では「がんばろう」という”意識”と、「変化したくない、楽をしたい」という”本能”の戦いが始まります。
「がんばろう」という意識は、情熱や動機づけが強いほど大きなエネルギーを持ちます。意識のエネルギーが本能の持つエネルギーを上回ったとき、僕たちは変化や厳しさを恐れずに行動を起こすことができます。
意識は兵糧作戦に弱い
意識を維持するには、常に情熱や新たな動機づけといった燃料(兵糧)が必要です。兵糧が尽きると、意識は無意識となりフッと消えていきます。
一方、本能は人間にあらかじめ備わっているものなので、兵糧を体内で自家生成することができます。つまり人が生きている限り本能が枯渇することはありません。
兵糧を補充し続けなければいけない”意識”と、兵糧を自家生成できる”本能”の戦いでは、持久戦になった場合、圧倒的に本能に分があります。
これが「がんばって始めても、がんばりが続かないと継続できない」理由です。
本能を無効化する
意識のエネルギーを本能より高め、さらに、エネルギーを補給し続けて意識の高さを本能より高く保ち続けるのは、容易なことではありません。
「がんばる」という意識で良い行動習慣を身につけることは、至難の業です。
良い行動習慣を身につけるためには、意識VS本能の戦いを終わらせるしかありません。
戦いを終わらせたら、本能優位になるのではないか?という疑問に対する答えは、こうです。
本能を無効化する。
本能の特徴は「変化を恐れる」「ラクな方を選ぶ」でした。
裏を返すと、本能がその特徴を発揮するのは、「変化が訪れた時」と「厳しい選択肢が現れた時」です。変化がなく、ラクな状態であれば、本能はその特徴を発揮しません。
研修で学んだことを実践し継続するために、この特徴を利用します。
たとえば、研修で「日々の振り返りが重要」ということを学んだとします。
その時、大半の人は「明日からは、振り返りをしよう」と心の中で意識します。そして翌日から意識VS本能の戦いが始まります。その結果、意識が本能に敗れて、行動が起こせない(継続しない)という結末を迎えます。
行動を起こすときに邪魔をする「変化を恐れる」本能を無効化する方法はこうです。
研修で学んだことをチームのメンバーに話します。そして「私はこれから毎日、振り返りをします」とメンバーに”約束”します。
”振り返り”自体は新しい行動(変化)ですが、”約束”は既知の行動です。
約束を守ることに対しては、本能がはたらきません。
つまり、「私は振り返りという新しい行動をするのではなく、約束を守るという既知の行動をするだけ。」と本能に言い聞かせるわけです。
これで行動を起こすときの「変化を恐れる」本能が無効化されます。
次に、継続の障害となる「ラクな方を選ぶ」という本能を無効化します。
たとえば、外に出る時に靴を履くという行動を、僕たちはほぼ無意識に行います。「靴を履くか履かないか」について、意識 VS 本能の戦いは起きないでしょう。
なぜか。外に出る時に靴を履くのがすでに習慣となっており、苦痛を感じない(=ラク)だからです。
つまり、学びの実践を継続するには、それが苦痛ではない状態にしてしまえばよいのです。
毎日振り返りをするのは、慣れないうちは苦痛かもしれません。
そこに、毎日振り返りを聞いて承認してくれる人がいたらどうでしょう。承認の喜びが苦痛を上回れば、振り返りが苦痛ではなくなります。
また、振り返りと言っても何を振り返ればいいのだろう?とゼロから考えるのは骨が折れますが、KPT法など振り返りのフレームワークを用いて、質問に答えるだけの形式にすることにより、自分で考える範囲が減れば、苦痛が軽減されます。
新しく身につけたい習慣は、21日間継続することで、最初は意識していた行動が、無意識でできる行動になる(習慣化する)という「インキュベートの法則」というものがあります。
苦痛を軽減し本能の働きを弱めて、意識が本能に勝てる状態で21日間継続したら、無意識でできるようになる。
無意識でできる状態になったら、もはや苦痛を感じないので、「ラクな方を選ぶ」という本能は無効化されます。
他力と仕組み化
このように意識 VS 本能の構図から離脱して、本能を無効化することによって、新しい取り組みを始め、それを継続するというのが、この記事の要点でした。
本能の無効化に有効な手段が、「他力」と「仕組み化」です。
先ほどの例でも、他力と仕組み化を活用しています。
【研修内容をメンバーに話して約束をする】
聞いてくれるメンバー、約束をする相手が必要です。自分一人ではできないので、他力を借ります。
【毎日振り返りを聞いて承認してもらう】
これも話を聞いて、承認してくれるメンバー(他力)が必要です。
また、「時間がある時にやる」ではなく、「毎日聞いてもらう」という仕組みにすることで、自動的に振り返りの時間が訪れるのもポイントです。
【KPT法などのフレームワークを用いる】
フレームワークは振り返り方法の仕組み化です
このように、他力をかりて、行動を仕組み化することにより、学びの実践と継続が容易になります。
マネジャーは仕組みをつくり、メンバーにとっての他力となる
マネジャー(管理職)にとっては、メンバーの育成や習慣形成の支援も重要な役割です。
そのためには、メンバーが行動を起こし、継続するための仕組みをつくるとともに、自ら進んでメンバーにとっての他力となることが求められます。
仕組み化のポイントは、以下の通りです。
・メンバーが他力を借りやすい仕組みをつくる
ex.)メンバーに向けた研修報告と行動実践の約束をする場を作る
・本質的な部分に集中して取り組める仕組みをつくる(それ以外の間接的な部分を仕組み化する)
ex.)行動を簡素化するためのフレームワークを導入する
・習慣化を手助けする仕組み(半ば義務でも21日間継続できれば習慣化するのであればそのための課題を設定する)※ただし義務感が強いと苦痛が上回るので習慣化しない。
ex.)毎週1回10分間、進捗報告と相談を受けるための面談を実施する(計3回)
今回は、習慣化したい行動を習慣化するための「他力と仕組み化の法則」について書きました。
自身とメンバーの成長にとって、たいへん重要な内容になりますので、ぜひあなたの職場でも広く活用してください。
このテーマでの研修や育成プログラムのご相談については、個別のメッセージで承ります。
すべての人の可能性に、花が咲きますように
めでたしめでたし
立﨑直樹
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