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多職種連携のための対話

多職種連携は、介護施設のマネジャーが抱える悩みのTOP3に常にランクインする問題です。
多職種連携がうまくいかない原因として、マネジャーが口をそろえてあげるのが、「コミュニケーション不足」。

いまこの記事を読んでいるあなたも、「そうそう、うちもコミュニケーション不足から多職種連携にほころびが生まれている」と感じたかもしれません。

そして唐突に始まるミーティングや個別面談。
しかし溝が埋まらないまま、ミーティングや面談は1回きりで終了。
長く勤めて人なら、一度は経験した光景かもしれません。
#僕も何度も経験しています

ミーティングでは解決しない課題

なぜミーティングや面談をしても解決しなかったのでしょう。
よくある事例を紹介します。

介護士と看護師の連携が悪く、お互いが相手のことを陰で批判している介護施設がありました。

介護士「看護師がおむつ交換をしてくれない」
看護師「介護士が排泄チェックをちゃんとしてくれない」
この現状を知ったマネジャーはコミュニケーションの問題だと考え、ミーティングを開き、こう言いました。
マネジャー「看護師もおむつ交換を手伝ってください。介護士はもれなく排泄記録を入力してください」
その場に参加した介護士、看護師は全員納得した顔をして、「わかりました」と同意しました。

しかし数日後、またマネジャーのもとに声が届くようになりました。
「ミーティングで看護師もオムツ交換をすることに決まったのに、またやってくれなかった」
「何度も注意しているのに、また排泄表に抜け漏れがある」

なぜ、ミーティングを開いて、コミュニケーションをはかったのに、解決しなかったのでしょう。


本当の課題はコミュニケーション不足ではなかった

コミュニケーション不足を解消するためにミーティングや面談を行っても、多職種連携の問題が解決しないのは、本当の原因(課題)の設定が誤っているからです。

「コミュニケーション不足」はチーム課題として非常に頻繁に使われる言葉です。
しかし、「コミュニケーション不足」とはどういう状態ですか?と質問すると答えに窮する人が多い言葉です。
正しそうだけれども、よくわからない言葉が、「コミュニケーション不足」です。

当然ですが、よくわからないことは解決しようがありません。
もうすこし「コミュニケーション不足」を深堀りしましょう。


相互無理解⇒互いの溝を知る

コミュニケーションは、相手のことを理解し、自分のことを知ってもらうための手段です。

コミュニケーション不足により起きている状態は、「相手のことが理解できない」「自分のことを理解してもらえない」状態と言い換えられます。

多職種連携がうまくいかないのはコミュニケーション不足が原因だ、という考えに基づくと、コミュニケーションさえとればすぐに連携はスムーズになると期待してしまいます。

しかし、ミーティングや面談だけでは、連携が改善しないことがあります。

連携がうまくいっていないときに必要なコミュニケーションは、「両者の間には溝があり、その溝の存在をお互いに認識する」ためのコミュニケーションです。
つまり互いのことを知らなかった(相互無理解)状態から、互いの考えや意見を知る(相互理解)への転換が、多職種連携のスタートラインになります。

先ほどの例では、
介護士は、看護師もオムツ交換をやするべきだと思っている。
 (看護師は、介護士がやってくれるものだと思っている)
看護師は介護士の記録漏れにより、業務が支障があると感じている。
 (介護士は看護師が記録の不備を詰(なじ)っているだけだと思っている)
という具合です。
多職種連携は、互いの考えや立場の間にある溝の存在を知り、認めることから始まります。


「議論」「会話」

溝の埋め方の話に移る前に、コミュニケーションの種類について整理しましょう。
お馴染みなのが、「議論」と「会話」です。
多職種連携の問題が解決できないときに行っているコミュニケーションも、この二つです。

「議論」は、対立する二つ以上の意見に白黒つけるコミュニケーション

オムツ交換は看護師の業務に含まれるか・含まれないか、という問いに対して、お互いが自分の意見を主張し、最終的にどちらかに結論を出すことを目的に話し合います。
たとえば「オムツ交換は看護業務の一部です。これからは看護師もオムツ交換をしてください。」などと結論づけます。
明確なルールの設定で解決できる課題については、有効なコミュニケーション手段です。
ただし、全員が理解・納得していないと、遺恨が残り、かえって両者の溝が深まる可能性があります。

「会話」は、内容よりも話すこと自体に重きをおくコミュニケーション

「会話」は「おしゃべり」と言い換えることができます。話す内容よりも「話す」という行為自体を大切にします。
多職種連携の面では、ふだん全然口をきかない人同士が、おしゃべりして仲良くなる(まずは普通に話せる関係を作る)という意味で大切なアプローチです。
しかし、内容がうわべだけになりがちで、終わった後にも何も変化がないということが起こります。
介護士「いつも介護士ばかりがオムツ交換をしていて、大変なんだよ。(本当は看護師にもやってもらいたい)」
看護師「(私たちもやってるけど)そうなんだ。大変だね。」


溝に橋を架けるコミュニケーション「対話」

多職種連携を円滑にするうえで、もっとも重要なコミュニケーションが「対話」です。
対話という文字から、対決・対峙といった印象をもつ人もいるかもしれませんが、それらはむしろ議論の概念で、対話は全く異なる概念です。

議論が、ある課題に対する解決策として、AかBかをはっきりつけるためのコミュニケーションだとするならば、対話は両者の間に溝があることを認めたうえで、AでもBでもない共通解

看護師がオムツ交換をしてくれない、という問題に対し、対話のアプローチでは、まず介護士、看護師双方の意見を対話のテーブルに載せます。
介護士:「介護士だって忙しいのだから、失禁に気づいた時ぐらい、看護師もオムツ交換をしてほしいです。すぐにオムツ交換をすれば、お客さまの清潔が保たれ、感染予防、不快の軽減にもなります。」
看護師:「看護師は介護士にくらべ少ない人数で業務を回しているので、突発の対応には対処しきれないことがあります。オムツ交換も必ず介護士に頼んでいるわけではなく、できる時には対応しています。ご本人の清潔保持とこの対応をすることによって他のお客さまを待たせて発生するリスクを天秤にかけて、都度判断しています。」

対話の土台は心理的安全性

前述のやり取りの例を読んで、お互いが考えていることをありのままに言うというと、意見が対立してケンカになるのではないか。と感じた人がいるかもしれません。

実は、対話が成立するためには大切なルールがあります。
対話は、参加者がルールを守り「何を言っても大丈夫」と思える心理的安全性を確保することで成立します。
対話のファシリテーターとしてのマネジャーの仕事は、このルールを全員に守らせて、その場の心理的安全性を確保することです。

<対話のルール>
・役職や職種、立場に関係なく、誰のどんな考えも尊重して聴き、正解や間違いを指摘したり、批判したりしない。
・相手を故意に傷つけるためではなく、課題解決や目標達成のためならば、自分の考えを正直に話していい。
・結論を出すことではなく、互いの考えの相違点を知ることが最初の目標。考え方が違っていてもいい。むしろ違いに気づいたことを歓迎する。

ファシリテーターは、対話の様子に耳を傾けます。
対話中の参加者から「それはおかしい」「ダメ」「~すべき」という言葉が聞こえてきたら、対話のルールを思い出させるために「最後まで聞きましょう」と聴く姿勢を促します。
聴いたうえで、違う意見があるなら「私は~と思う」という言い方で話すように助言します。

心理的安全性を簡単に言うと、その場に居る全員が、「わたしもあなたも”ここにいてもいい”」と思える状態です。


多職種連携を高めるには、心理的安全性→対話→議論の順

多職種連携が唐突なミーティングや面談で解決しないわけについては、ご理解いただけましたでしょうか。

お互いの存在を認めていない状態で議論してくだされた結論は、無機質な規則でしかなく、そこからは血の通った連携は生まれません。

連携を高めるために重要なのは、コミュニケーションの種類(対話)と、対話の土台となる心理的安全性です。
順番は必ず、心理的安全性→対話→議論です。


もしかすると、今あなたがコミュニケーションの問題だと思っていることは、実は心理的安全性の課題かもしれません。
まずは、あなた自身の心理的安全性は保たれているか?振り返ってみてはいかがでしょうか。


めでたしめでたし

立﨑直樹

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