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「人としての器」の大きさに関する詳細な要素

以前の記事「人としての器」の構成要素にある4つの領域では、「感情」「他者への態度」「自我統合」「世界の認知」という4領域の構成要素について、「表層-深層」と「内面-外面」の2つの軸を用いて整理できることを示しました。

これにより器を構成する概念の大枠に関する理解を深められましたが、その大きさに関する詳細な検討は不十分でした。

そこで、今回の記事では「人としての器が大きい・小さいとは何か」という観点で少しだけ掘り下げてご紹介したいと思います。

前回と同じく、社会人を対象としてアンケート調査の分析結果から、4領域の中で「人としての器が大きい人・小さい人の特徴」に関する20の詳細な要素を明らかにしました。

器の小さい・大きいに関する特徴を対照的に示しながら見てきたいと思います。


「感情」の詳細な要素

●余裕がない、落ち着きがない←→心の余裕、穏やかさ

⇒器が小さい場合、せっかちで落ち着きがなく余裕がないという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、心に余裕があり穏やかであるという特徴が抽出されました。

●ネガティブ感情←→ポジティブ感情

⇒器が小さい場合、悲観的で満たされていないといったネガティブ感情に関する特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、朗らかで明るく、前向きで好奇心にあふれているといったポジティブ感情に関する特徴が抽出されました。

●すぐ怒る、感情制御できない←→冷静さ、感情制御

⇒器が小さい場合、すぐ怒る、恐れるなど感情制御できないという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、動じない、冷静さ、怒らないなど感情制御ができるという特徴が抽出されました。

●打たれ弱い←→レジリエンス、回復力

⇒器が小さい場合、打たれ弱いや情緒不安定という特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、レジリエンスや回復力があるという特徴が抽出されました。

●共感力がない、感性がない←→共感性、感覚的な豊かさ

⇒器が小さい場合、共感力がない、感性がないという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、共感性や感受性など感覚的な豊かさがあるという特徴が抽出されました。


「他者への態度」の詳細な要素

●信じない、認めない、利用する←→育てる、任せる、励ます

⇒器が小さい場合、相手を信用しない、認めない、褒めない、はしごを外す、利用するなどの特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、相手を導く、信頼して任せる、励まして勇気づけるという特徴が抽出されました。

●見ない、聞かない、押しつける←→傾聴、観察、押しつけない

⇒器が小さい場合、結果しか見ない、話を聞かない、自説を押し付けるという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、傾聴する、観察する、押し付けない、余計なことを言わないという特徴が抽出されました。

●狭い関係、排他的、対話下手←→関係づくり、親和的、対話上手

⇒器が小さい場合、狭い人間関係、敵視、排他的、コミュニケーションが不得意という特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、フットワークが軽い、つながりを大切にする、ユーモア、人望という特徴が抽出されました。

●偏見、差別、礼節がない←→他者尊重、愛情、思いやり

⇒器が小さい場合、偏見、差別、道具的、人によって態度を変える、礼節がないという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、他者尊重、協調、愛情、思いやり、優しい、偏見がないという特徴が抽出されました。

●否定、見下す、虚勢張る←→謙虚さ、責めない、否定しない

⇒器が小さい場合、否定的、悪口・陰口、批判的、マウント、見下す、大きく見せるという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、謙虚さ、責めない、悪口を言わない、否定しないという特徴が抽出されました。

●不寛容、細かい←→受容、おおらか

⇒器が小さい場合、不寛容、細かい、マイクロマネジメントという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、心が広い、オープンマインド、受容、寛容、おおらかという特徴が抽出されました。


「自我統合」の詳細な要素

●卑屈、他者依存、素直でない←→自己受容、自立心、素直

⇒器が小さい場合、卑屈、コンプレックス、他者比較、依存、非を認められない、権威主義、素直でないという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、自己受容、弱さの開示、自立、素直、自然体という特徴が抽出されました。

●保身、自己中心、損得勘定←→利他、公共心、社会性

⇒器が小さい場合、保身、自己中心的、利己主義、損得で動くという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、利他、公共心、社会性という特徴が抽出されました。

●信念がない、意志がない←→信念、志

⇒器が小さい場合、ビジョンや信念がない、自分の意志がないという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、ビジョン、信念や志があってブレないという特徴が抽出されました。

●反省しない、ルールに固執する←→学ぶ姿勢、柔軟性

⇒器が小さい場合、学習しない、反省しない、ルールにとらわれる、柔軟性がないという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、学ぶ姿勢や向上心がある、柔軟性があるという特徴が抽出されました。

●チャレンジ、決断、行動しない←→チャレンジ、決断、行動

⇒器が小さい場合、受け身的で言い訳をして決断やチャレンジをしないという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、実行力や積極性があり、決断・チャレンジをするという特徴が抽出されました。

●無責任、愚痴、文句、嘘をつく←→責任感、誠実さ

⇒器が小さい場合、無責任、他責、愚痴や文句や不満ばかりを言う、根性や忍耐力がない、嘘つきでせこいという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、諦めない心、努力、責任感、誠実さがあるという特徴が抽出されました。


「世界の認知」の詳細な要素

●視野の狭さ、視座の低さ←→視野の広さ、視座の高さ

⇒器が小さい場合、相手の立場を想像する力がない、目先の損得など視野の狭さや視座の低さに関する特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、視野が広く、視座が高く、未来志向であるという特徴が抽出されました。

●短絡的思考、思考が浅い←→本質的思考、大局観

⇒器が小さい場合、短絡的思考、思考が浅いという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、すべての事象に意味を見出す、本質を見極める、大局観という特徴が抽出されました。

●知性がない←→知識、思慮深さ

⇒器が小さい場合、知性がないという特徴が抽出されました。これに対して、器が大きい場合、知識や経験が豊富で思慮深いという特徴が抽出されました。


まとめ

器の小さい・大きいに関する20の詳細な要素について、対になる形で取り上げてきましたが、器が大きさに関するイメージが深まったのではないでしょうか?

ただし、器の大きい要素のほうが理想的であると感じるかもしれませんが、これらの要素は器の大きさを決定づけるものではなく、あくまでガイドラインという姿勢で捉えるべきものであるように考えます。

上記のように、二項対立の形で取り上げることによって、あるべき姿やそれに伴う善悪がつくりだされ、人を裁く道具として用いられたり、あるいは自分を卑下したり、無理して大きく見せることにとらわれたりする傾向に陥る可能性もあります。

本来は目に見えないはずの器の要素を分析的に詳細化することで、上記のような目に見える理想像や正解像を規定してしまうことには気を付ける必要があるでしょう。

しかし、少し立ち止まって、よくよく考えてみれば、ある絶対的な規範を作り出したり、それを用いて他人をさばいたり、あるいは自分を無理して大きくしようととらわれている人は、果たして器が大きいと言えるでしょうか?

このように考えてみると、やはり器は大きいほうが望ましいと言えるのではないかと思います。

なぜなら、器を大きくすることは、器が小さいことも含めた矛盾や異論を受容して、統合することだからです。

つまり、器の大きさについて語る際、その大きさには、目に見える形の善悪を超えた、目に見えない奥深さが想定されているのです。

このようにして深層を探っていく姿勢を十分に理解して体現できたときに、上述した20の要素は意味のあるものとして真価を発揮するのではないかと思います。

あなたはどの要素が得意領域で、どの要素に成長の余地があると思いますか?

そのうえで、どの観点を見落としていて、どの観点でもっと器を大きくしていこうと考えますか?

20の要素を参考にして、ぜひ一度、自分自身を見つめ直していただけますと幸いです。



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「人としての器」の大きさに関するアンケート調査の分析プロセスは、下記の学会発表原稿をご参照ください。

羽生琢哉, 高橋香, 前野隆司,「人としての器」の大きさに関する検討,人材育成学会第20回年次大会発表論文, 2022年12月

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