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バブル世代問題に対する「人としての器」という指針

最近、企業の人事担当の方と話をしていると「バブル世代」の問題が取り上げられることが多いように感じます。

バブル期に大量採用された世代が現在50代半ばとなって企業の人件費負担を圧迫し、またポストも不足しているため、この世代をどのように活性化するかが課題になっています。

バブル世代といっても様々な状況の方がいますので、ひとまとめにして語るのは適切ではないかもしれませんが、どの企業においても似たような話を聞くことから、社会全体として重要な関心事になっていると推測できます。

企業の現場では、各種対策が議論されていますが、どれも抜本的な解決策にはなっていません。

そこで、今回の記事では「人としての器」という観点から、バブル世代を取り巻く問題と、その対応策を考えていきたいと思います。


バブル入社世代を取り巻く問題

バブル期に大量採用されたこの世代は、人口が相対的に多い団塊ジュニアとも一部重なっています。

彼らは現在50代半ばとなり、それに伴ってポスト不足や人件費の増加といった問題が顕在化し、人事部門にとってはこの世代の人材活用に頭を悩ませています。

一部の企業では役職定年制を導入していますし、また別の企業ではジョブ型雇用を進めて仕事内容に見合った賃金支払いを目指そうと人事制度改革を進めています。

さらに、政府が推進する学び直しやリスキリングもこの世代の問題と関連しています。

新たな技術や知識が求められる現代において、何歳になっても絶えず自身のスキルをアップデートしていくことが求められます。

しかし、この世代の中にはこれまで組織の方針に従うのを当たり前にしてきた方も多く、主体的なキャリア形成や学び直しに上手く対応できない傾向も見受けられます。

職業キャリアも折り返し地点が過ぎてゴールが見えそうになったタイミングで、組織の都合で役職を外されたり、思いもよらず賃金改定の対象になったりなどして、さらには、それに伴って自己主導的にキャリアを構築することや、新たなスキルを学ぶことへの方針が示されたとき、当事者からすれば、どこか不合理さを感じてモチベーションも上がらないという事態が生じているのではないでしょうか。

これまで会社の看板を背負いながら、身を粉にして働いてきたため、長年勤めた組織への愛着もあると思います。

しかし、だからこそ、いまさら組織の外に出て、自分一人の力で何かを始めようという気持ちにもなれない事情もあります。

大企業であれば定年まで、なんとかしがみついて逃げ切れば、その後も悠々自適に暮らしていける淡い期待があるでしょう。

ただし、自分が何をしたいかよりも、組織に中で何が求められるかを意識しながらキャリアを歩んできたため、定年した先、どんな活動をしていこうかについてはあまり具体的に考えられていないケースも多いように感じます。

役職定年にしても、人事制度改定にしても、会社もドラスティックに賃金を下げるわけでもないので、彼らの中には、これまで培ってきたスキルを頼りに、ほどほどに働ければいいと考えている人も少なくないかもしれません。

急激に社会のシステムが変化する中で置いてけぼりにされた感覚があり、会社からはもう期待されていないように感じているものの、年功序列の風土において若い人は敬ってくれるし、「自分はもう年だから」という言葉で自己弁護をしながら、新しいテクノロジーの導入については若い人に任せればいいという考えがよぎることがあるでしょう。

あるいは自分の経験値から若い人に適度にアドバイスをして、これまで培ってきた経験をこれ見よがしに伝えることが、自分の果たすべき役割だと見定めるような方もいます。

しかし、それをこじらせた結果、若手が自分に敬意を示さなかったり、自分にアドバイスを求めてこなかったときには感情的になって当たったり、「最近の若者は・・・」という口調で、世代間の対立をあおったりするケースもあり、それが組織の空気感を重たくさせてしまう一因になっていることもあります。


企業が対応を考えるうえでの着眼点

バブル世代の問題は、当人だけでなく、当人の家族の存在、会社の姿勢、技術革新、社会背景、世代間の価値観の違いなど、様々な観点が入り組んでおり、とても複雑です。

企業では、人事制度を改定して賃金支払いの適正化を図り、それに伴ってキャリア開発や学び直しの支援の強化を進めています。

しかし、バブル世代の当人たちにとっては、自分達がお荷物扱いされているという反感を抱いていたり、あるいは、なんとか逃げ切ろうと当事者意識をもって受け止められなかったりなど、どこか現実から目を背けているところがあります。

このとき、企業の対応として、まず重要なのは、年齢に応じて知性(成熟度や発達度合)が高まるというのは古い考え方だという理解を得ることではないかと思います。

以下の画像は「なぜ人と組織は変われないのか」(英治出版)からの引用ですが、同じ年齢であっても、知性が発達している人もいれば、発達していない人もいて、発達度合いは決して年齢だけで判断できず、どんどんバラツキが大きくなっているというのが新しい常識です。

「なぜ人と組織は変われないのか」(英治出版)より引用

考えてみれば当然ですが、若くして成熟した人もいれば、年を取っても未熟なふるまいをする人もたくさんいます。

バブル世代をひとくくりにはできず、人それぞれで発達段階は異なり、それぞれに固有の価値観や考え方があるのです。

そうだとすれば、一律の年齢を節目としたキャリア研修は、この先、思うように機能しなくなるかもしれません。

年齢というよりも、一人ひとりの発達度合いに応じて、どのように成熟するかを目指して、どのような人生を歩んでいくのか、すなわち自分らしい器をどのようにつくっていくかを考えるための支援が、これからのキャリア開発支援のトレンドになっていくのではないでしょうか。


「人としての器」という新しい指針

何歳になっても、「人としての器」を磨き高めるということが重要な指針になります。

これまで、企業では、役職や賃金などの外的な報酬によって、従業員のモチベーションを管理してきました。

その結果、ある役職に就くまで頑張る、ある賃金に到達するまで頑張る、という目に見える目標を重視する価値観を育むことになりました。

しかし、バブル入社世代にとって、そうした目に見える目標がなくなった今、何をモチベーションの拠り所にすればよいか、わからなくなっているのが現状です。

この対応策として、「人としての器」を磨き、高めるということを、自身の生き方の拠り所にしてみるというアプローチが考えられます。

前回の記事で書いたように、「人としての器」の考えは、自分自身や他者と真剣に向き合うことを重視し、それによって豊かな人間関係を築く基盤ができ、一人ひとりの人生を意義のあるものにします。

これは、目に見える目標を見失い、今後の人生を考え直すタイミングにあるバブル世代にとって、重要な指針になるのではないでしょうか。

「感情」「他者への態度」「自我統合」「世界の認知」という四つの領域から、自身のふるまいを見つめ直すことで、この世代を取り巻く難しい問題の解決にも貢献できるように思います。

感情がコントロールでき、心の余裕があれば、周囲との良好な関係性を構築できます。

相手の話を真剣に聴き、偉ぶらない態度を持てば、若い人たちとの関係性も良くなり、メンバーからの信頼を得られ、組織の中に居場所をつくることもできるでしょう。

学ぶ姿勢や自分軸を持つことによって、組織から求められることにとどまらず、自分なりのやりたいことを見つけて、新たな学びに主体的に投資し、それがセカンドライフの生産的な活動につながっていきます。

視野を広げたり、メタ認知できるようになると、これまでの組織の枠の中にとどまらず、固定観点を捨てて、新しい視点で現実の変化を見つめられるようになるかもしれません。


まとめ

バブル世代の問題は複雑であり、人によって発達度合いも異なるため、一律の解決策は存在しません。

人事側も賃金支払いの合理性ばかりを考えていたり、キャリア自律という言葉を一方的に提示するだけで、その責任を社員に丸投げしようという姿勢になっていたりしないでしょうか。

一方、バブル世代本人も自分の損得ばかり考えて、会社にしがみつき、これまで自分が培ってきた心地よい安全地帯の中だけで仕事を進めようとしてないでしょうか。

そういった、お互いの器の小ささが相互作用した結果、この問題にどう向き合えばいいのかを余計に難しくさせているのかもしれません。

このとき、「人としての器」という指針を持つことで、新たな解決策を見出せるようになるでしょう。

意外なことに、当事者は、自分でもどんな器をつくりたいかわかっていないことのほうが多いのです。

これまで会社の看板で生きてきた場合、無意識のうちに、会社の型どおりの器を目指そうとしているかもしれません。

しかし、一人ひとりには、かけがえのない、自分らしい器の形があります。

どういった器をつくりたいか、バブル世代という人生に向き合うタイミングで、あらためて問い直してみるのはいかがでしょうか?

自分らしい器をつくるのに、世間が決める絶対的な価値基準や正解の形はありません。

年を重ねただけでは人は老いず、理想を追い求めている限り、その若さが失われることはないのです。

何歳になっても素敵な器をつくっていきましょう!


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