【春めく】
退院してから段ボール畑での宝探しが大変だった。
引っ越しの荷物整理を他人に任せると「何処にあるんだ?」と段ボールを片っ端から開けてみないとならなかった。
一人で住んでいたのか?と言うぐらいの荷物の量に気がめいった。
荷物を整理した妹も、さぞや大変だっただろう。
自宅に戻る際は、断捨離をしようと誓った。
URの住まいは2階なのだが、窓の外を見ると1階に住んでいるような錯覚に陥った。
何となく高さを感じない景色なのだ。
窓の外は木が何本か植わっており、地面は芝生で綺麗にされている。
定期的に手入れの人達が来ているようだ。
住み始めた頃は、木は枝だけの寒そうな冬景色だったが、段々と気候が暖かく春めいてくると枝に新芽が芽生えてきた。
ここに来て春の装いを感じると、心も雪解けのように少しずつ癒されていくようだった。
最近、保険屋からのアクションも無いからかも知れない。
この景色を見ていると、いろんな事がどうでもよくなった。
退院してから月日が経つのが早かった。
3月も後半になると、外の景色も新芽一色で、目に優しい景色となった。
数本ある木のうちの1本には、新芽のほかに白い花が咲いた。
それが次第に新芽を隠すぐらい白い花で満開になった。
桜の木だった。
桜の花を窓越しにひとりじめ、得した気持ちになった。
悪いことだらけだったので、ちょっぴり嬉しかった。
つづく
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