3月14日

 年明け以降、家の中が引っ繰り返っている。物質的な事柄ではなく、精神的な面で…。それがあらゆる人と場面に、弊害を引き起こしている。自身のことも勿論だが、一番大変な思いをしているのは我が母親で、ストレスから眩暈と吐き気で寝込み、並行して帯状疱疹を発症した。
 精神的なものは、目で見る分には判り辛い。体調に影響しだして、そのストレスの重さに気付いた時には、大方手遅れだ。私自身もそうだが、母自身も、回復まで時間を要するだろう。
 日々の暮らしからの逃亡を模索している母は、策のひとつとして、田舎に引きこもろうと考えているらしい。そういった無計画な欲求は、自分の頭で考え、不満として発している間は、口だけで終わる。本気になったら言葉にしないままに、まず凄まじい行動力を発揮する。過去、自宅の建て替えを決行するに至り、想像だにしない素早さで、各種対応にその身を費やし、こちらの気持ちが追い付かないままに、現実化したのを知っているだけに、今回の件はまだ、半分投げやりな出任せでしかないと思っている。
「一人やと狭いボロ屋で充分やし…」と言っていた朝、あぁ…一人で田舎暮らしするつもりでいるのか…と思ったら、昼には「仕事、田舎で探したら?」と、私も一緒に田舎に行くことになっていた。
 隠居したら田舎暮らしをしたいと思っているが、それは田舎で家を買うだけのお金が貯まってからの話だ。今でも、気軽に墓参りに帰れる別宅が、田舎にあったら良いのに…と毎日考えているが、それは今住んでいる家を処分して、完全に田舎暮らしをする…という意味ではない。
 建て替えて二十年になるこの家は、狭い土地の戸建に過ぎないが、母がその言葉の通り、心血を注いで建て直した家だ。人手に渡すつもりが毛頭ないのは、私だけでなく母も同じである筈だった。そして、我が家を引っ搔き回している自覚がまるでない、家庭内別居状態の父も同じつもりでいるから、とっくに精神的一家離散を遂げている我が家が、物質的な一家離散という平和的解決を遂げられない理由にもなっている。誰も彼も、この家に拘っているから、それぞれの居心地が悪く、それぞれがストレスで体調を崩す。
 口から出任せでも、時に現実になることがある。家を手放す覚悟で田舎に引き籠るなら、住む場所を確保しなければならない。本気なら実現に向け、組み立てていくべきことが沢山ある。母にはそう言った。本気なら止める余地はない。最もしんどいのは母なのだから、私がとやかく言えることではないのだ。
 私はこの家を放棄するつもりはない。必死で住み心地の良さを追求し、手をかけてきたこの家を父に明け渡したら、どんなことになるか目に見えているからだ。
そもそもこの家は、人間たちだけのものではない。長男犬が半生を過ごし、次男犬が一生を暮らし、三男犬が家族として生き始めた、大切な思い出が詰まった家である。家の権利が私になくとも、みすみす放棄してたまるか!
 進まない就活の狭間で、万が一、母と共に田舎に引き籠るとして、地方では一体どんな仕事があるのだろう…と、思い立ってハローワークの検索をかけてみた。
 田舎だからといって、仕事…思ったほど無いわけではないようだ。
 勤務時間は私の希望に大分寄っている。一方、給料は3万から5万程度低額である。職種は、私が興味を持てるようなジャンルのものが、むしろこちらよりは多い気がする。といっても、土地勘が無いので、暮らそうとする場所からどの程度距離があるのかは、測りかねる。通勤が現実的なものなのか、想像もつかない。
 土地柄で、募集業種には海産業が一定数含まれている。こちらでは目にしない職種だ。私とは縁のない職業なので、それがプラスに働くことは無いと思うが、田舎に引っ込んだとしても、出来る仕事が無いわけではないらしい…と、少し希望を持った。

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