妹という人 ⑤

 昔、求められて妹に貸した唯一のヴィトンがボロボロになって返って来た。何かの記念に母からプレゼントされたもので、むやみに持ち歩かず、大事に綺麗に使っていたのだが、返って来ないので催促を繰り返した結果、手元に戻ったそれは、元々ベージュだった肩紐や底の革が、使い込んだように茶色く変色していた。
 妹はいつも、実家をぐちゃぐちゃにして帰る。脱ぎ散らかした寝間着類、飛散した煙草の灰、丸まった布団、溢れかえったゴミ、飲み残しを含めた何本ものビール缶…。かと言って、見たその場で言うとキレる。そして結局、ほったらかして帰るのだ。
「ここはホテルか!甘えたにも程がある。甘え過ぎ!(怒)」
 私は苛々しながら布団を干し、ゴミを回収して掃除機をかけ、終わった頃に灰皿をひっくり返して再び掃除をする羽目になった。
 今回、腐ることなく、比較的上機嫌で帰って行った妹の部屋は、珍しく片付いていた。ゴミ箱と灰皿は満杯のままだが、衣類は洗濯機に、布団は一応整えられていた。飛散した灰にまで気が回らないのは想定内であったが、お陰で掃除が随分楽だったのに、終わった頃に灰皿をひっくり返して再び掃除をする羽目になるところは、全然変わらなかった。
 妹は少し成長したというのに、姉の私に成長はない。トホホ…である。
 
 妹が帰った翌日、私は酷い下痢と吐き気に襲われた。病院へ行くと言っていた彼女の具合を訊くためにメールする。
〔夏バテと胃腸炎。いつもこの時期。〕と返信があった。
〔あんたの下痢が移ったわ。〕と返す。
〔私の作ったごはんのせいって言いたいの?〕
『なんでやねん…』と思った。
〝腐らないように…〟、友達と夕食に出掛ける前に、思い立って妹が、家に居る家族の夕食を作ったのは帰省して二日目のことである。しかも〔あんたのごはんに中ったわ〕などとは、一切書いていない。冗談すらも通じない。本当に面倒臭い奴だ。
 母曰く、「胃腸炎は移る」らしい。私の不調はその日の夜だけで済んだが、とんだ置き土産に中ったものである。

 

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