妹という人 ①
妹が帰って来た。本人曰く、心が疲れたら帰って来るらしい。
家には安らぎを求めるが、家に居る相手が同じことを求めた場合、それは拒否するというのが彼女の常だ。本人がその身勝手ぶりを自覚していない、とても面倒な人間である。
しかし今回は違った。通例ではあるが、帰って来た初日は機嫌が良く、饒舌である。寝ようと思っていた矢先に語り出し、酒の勢いで千度泣き、最後にスマホでYouTubeの画像を二曲分強制的に見せつけて、やっとベッドに辿り着いた。
前年度まで肩書の一部であった〝相談員〟としての職業スキルが、少しは役立ったらしい。全部噛み砕いて話してようやく伝わったのか、自分だけでなく、相手にも心があることに気付き、理解したようであった。
妹と私は違い過ぎる。姉妹なのに、似ているところが少しもない。子どもの頃は、多少顔も似ていたが、今現在、姉妹として思い当たることがあるとすれば、電話の声が似ているらしいことだけか…。これだけは母を含め、我が家の女三人が、共々、他人から間違えられるので、やはりそれなりに似ているのだろう。
正月に帰省してきた折、妹は自分がヨガに行きたくて予約を斡旋してきたくせに、直前になってドタキャンした。
今回またヨガに誘われたが、宛にならない上、ドタキャンも面倒臭いので丁重に断る。一人で行く気になっていたが、送迎しろと言い出した。それは良いが、家に一台しかない車を使う為、普段自分で運転して仕事に行く母の送迎は自分でするように言うと、「運転出来へんからバスで行く」と言った。免許は持っており、東京では友達と、レンタカーを借りて旅行などもしている様子。全く運転をしていないわけではないはずだ。
しかし、送り迎えをしてもらえないことと、テンションが上がって明け方まで一方的に喋り続けた初日の夜を越えて起きられず、結局行くのをやめていた。そもそも予約すらしていなかったと言うのだから、こうなることはある程度想定内ではあったのだが…。
「あんな時間に寝て、よぅ起きれんなー…」
午後を過ぎて起きて来たと思ったら、開口一番にこう言った。
何もなければ寝ていただろうが、私には用事があった。
『あんな時間って…。あんな時間まで寝かせなかったのは誰だ?』
前回の帰省時、私はあることに気付いていた。もしかしたらもっと以前に気付いていたのかも知れないが、彼女の顔色に左右されることで、はっきりと自覚を持って客観視出来ていなかったのだと思う。〝相談員〟としての職業スキルが生きている間に、その力を立証しようと、今回そのことを本人に伝えることにした。
妹は引き籠ると、どんどん不機嫌になる人種であった。
彼女は実家に帰って来ると、大半をベッドの上で過ごす。それは昔から変わらないのだが、友達と約束をして出かけて行けばそれなりに機嫌良くしているものの、約束が破綻したり、自分自身が億劫になってドタキャンすれば、部屋着のまま一日暗い部屋で眠っているかテレビを観ているかの二択なのである。
暗闇の中、テレビの灯だけで暮らしている姿を見ていると、『よくしんどくならないな…』と思ったりするのだが、実際、本人の自覚の無いところでしんどくなっているのだろう。日に日に口数が減って、笑うどころか喋りもしなくなるので、こちらとしては良い気がしない。
彼女はそのことを、自分でも薄々感じていたようだ。
「家の中でじっとしてたら腐って来る」
わかっているなら、するべきことはあるはずだ。そもそも自分が連れ帰って放置した犬がいるのだから、その気になれば太陽の光を浴びる機会などいくらでもあるというのに、帰省時でさえ世話すらしない。
私は家好きな人間であるが、暗闇の中で人工的な光に照らされて暮らすのは御免である。
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