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小説

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2019年12月の記事一覧

「退屈」

昨日と今日と明日は繋がっている。十二時に境目なんて無くて、ぼんやりと続いていく。朝は夜の続きでしかなく、夜もまた。同じ朝を同じ夜を繰り返しているだけで、何も変わらない。そこには違う人が立っていて、温度や湿度が違って、明るさが違う。でもいっしょだ。構成要素が違うだけで、印象は何も変わらない。それに場所の違いってのも無い。旅に出たことがある人ならわかるだろう。身近な場所にあの場所と重なる瞬間があること

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濃霧から

夜中の三時という時間には何か「意味」と呼ばれるべきものがある筈だ。私は徐に辞書をひらいた。「夜中」の項を見つける。人差し指でそこからゆっくりとひだりに文字を辿る。「夜中の三時」という項がないことに唖然とする。
先程鳴った鐘の音がまだ脳裏にこびりついていて、それは「こびりつく」という語感の割りに心地良い。布団の中から携帯を手取ると、私は路線情報をひらいた。運行情報を見ると、そこにはいつも乗る電車が載

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便所考

トイレは魅力的だ。家の中でもそこだけが異空間であるかのように、その閉ざされた空間は孤独に寄り添ってくれるだろう。ズッコケ三人組でハカセが愛した空間も確かトイレだった。トイレにいるとき、ハカセは誰よりも集中するのである。

トイレに置かれた白い陶器は無機質な表情をしていて、そこが家でなく公共の場であったとしても器物の羅列は魅力的に映るだろう。場によってはその壁を巡らされた配管が露わにされ、近代的な空

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探偵の思惑

彼はある事件に遭遇していた。
彼は孤独な瞑想の内にその事件の解決を試みるだろう。そしてそれは解決されることを予感している。
事件が起こり、その謎を推進力に物語は進む。語られたすべての複線が一つの点に纏まることで美しい完結が起こる。彼の物語(生命活動とルビを振っても良いだろう。)はそういう仕方でしか動かない。何かの謎を解き明かそうとする、物語が物語故に持つしつこいまでに物語的な性格によってしか、彼の

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