マガジンのカバー画像

何度でも読み返したいnote1

98
何度でも読み返したいnoteの備忘録です。 100作品たまったので、何度でも読み返したいnote2を作りました。
運営しているクリエイター

#小説

ヒーローの目にも涙

子供の頃についた嘘を 大人になってもまだ訂正出来ずにいる 当時流行っていた戦隊物のベルトをつけて 妹にこう言ったことがあった 「実は兄ちゃんはヒーローなんだ!」って 強くもないし勇気だってない 空も飛べないしバイクにさえ乗れないのに まだ幼かった妹はその言葉を信じ込んで 目を輝かせながら予想以上に食いつくもんだから それが嘘だと言おうとしても 「みんなには内緒だよね!わかってるから!」 と打ち明ける前に言葉を遮って 本当のことを告げぬられぬまま今に至る ヒーローら

好々爺しげさんの独り言は         かるくて深くてせつない

この世を去った後に その人の存在が さらに 大きくなるということがある。 しげさんが亡くなったのはコロナ禍真っ只中の春だった。 葬儀はひっそりと行われ、家族だけに見送られて旅立った。 あれから1年半。しげさんの言葉は生き続けている。いや、その言葉の重みは増しているのだ。 しげさんの生前の生活は平凡だった。穏やかな日々。でも、だからこそ心豊かに生きるヒントがいっぱい。 ちょっと覗いてみましょうか。 第1章 縁側でにゅうめんを      すするしげさん しげさんの好物は

桜の季節、誰かが誰かを待っている。

noteをふいに訪れていると、誰かが 誰かのためだけを想っている言葉に であうことがある。 ふだんは、わたしはわたしのことしか 考えていないようなにんげんなので。 宛先がいつも誰かであるひとに会うと、 どうしようもないぐらい、恥ずかしく なってしまう。 じぶんの心を整えるために書いてきたので たぶんわたしの言葉はいつも宛先はじぶん だったような気がする。 だから、いっそもうじぶんのことは置いておき たいと思うことがある。 「わたし」や「じぶん」から遠

ふたりの春が、いつかどこかで歌っていますように。

春ってちょっと苦手だけれど。 わたしが苦手だからといって、春を 迎えたい人がたくさんいるのだから それを嫌いって言ってちゃいけないなって 思った親子にむかし出会ったことを 思いだした。 お父さんと娘さん。 幼稚園ぐらいの女の子。 わたしの隣のテーブルのお客さんだった。 私たちの方が少し先に来ていたので メニューが運ばれてくるまでちょっと 待っていた。 席を決める時に、そこにいないお母さんを 思いだしたのか、パパはここ、わたしはここ そこはママだね。 って言った

春が半分泣いている。

「彼女、美人だけどニコリともしないでしょ。だから”冷子さん”」  西藤さんは紙の左上をホチキスで留めながら言った。何も応えられずに曖昧な笑みを浮かべると、「悪い人ではないんだけどね」と控えめに付け加えてから別の話題に移っていく。  私はほっとしたのを気付かれないように相槌を打ちながら、別のデスクの島で黙々と作業をするその人を横目に見た。  清潔感のある白い壁紙に艶を消した灰色のオフィスデスクがひしめく一室。密やかな話し声と複合機が紙を吐き出す音が満ちる中、その人だけが別

むらさきの指輪の行方

「明日予定ある?ヒマなら出かけよう。」 夕食後リビングで本を読んでいると、ジン兄が声をかけてきた。 ここは母の姉である伯母の家。 母と伯母は5人兄妹の中でも仲が良く、長期休暇には母とふたりで帰省し、伯母の家でお世話になることが多かった。 従兄弟のジン兄ちゃんとゆう姉ちゃんがいて、ふたりとも昔から私を本当の妹みたいに可愛がってくれた。 「いいけど、どこ行くの?」 「友達とめし食べよう。」 当時私は高校生、兄ちゃんは大学生。冬休みを利用し2週間ほど滞在させてもらっていた

ゾウは自分の意思で虹をかける

「自分の意思で虹をかけるのって、人間とゾウだけなんだよ」 ある日、不意に話しかけられた内容は、妙にファンタジックだった。 彼は、言いながら黙々とゾウの絵を描いている。 「え、そうなの?クジラは?クジラも虹出すんじゃない?」 私は、思いついて、意地悪く否定する。 「クジラはさ、たまたま潮を吹いた時に虹がかかるんだ。でも、ゾウは、虹を出そうと思って水を撒くんだよ。それって、同じ虹でも、大分違う」 ゾウって虹がみえてるの? そう言うのはやめた。 彼の描く絵のゾウが、虹を作

地図は雰囲気で読むタイプ

私は地図がうまく読めない いやちゃんと読んではいるんだ 駅を降りてコンビニを目印にその先を右に… あっと言う間に地図に載っていない道へ出る 不思議だ、ワープしたとしか考えられない さっきまで無かった道が急に出現したり 看板が変わっていたり通せんぼするように壁が現れる 誰かが私が歩く道を先々に瞬時にいじくってやがる そう思うことがよくある 「またやってるな」 といたずらをする誰かによく言う 私も馬鹿では無いから克服しようと調べたこともある 平面で見るのでは無く立体的に