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何度でも読み返したいnote5

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何度でも読み返したいnoteの備忘録です。更新は終了しました(2024.6.10)。
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2024年2月の記事一覧

わたしは地下鉄です

物心ついたときから、家のある街にはいつも地下鉄が走っていた。 引っ越しも何回かしているし、べつに地下鉄にこだわって住む場所を選んだおぼえもない。 なのに、気づけばずっと生活のかたわらには地下鉄がある。 * 地下鉄を利用しているひとはきっとみなそうだと思うのだが、僕もまた隣町の風景をよく知らない。そもそも見えないのだ。どうしようもない。 ある日思い立って途中下車でもしないかぎり、隣町は永遠に「〇〇駅」という無味乾燥の記号でしかない。 親しさはかならずしも近しさと比例

第一次豚汁論争

皆さんは「豚汁」という存在について、いかがお考えだろうか。 先日親友と呑みに行った際、私は長年の悩みであった「豚汁の付け合わせに何を据えるか」について、ついに打ち明けた。 「晩ごはんに豚汁を作ったとして、お米とそれを並べるとあまりに見た目が簡素やんか?やからそれにお浸しとかお漬物を添えるんやけど、それでも何かが足りひん。やからいつも焼いた厚揚げを並べてそれとなくスペースを稼ぐねんけど、あまりに茶色いねん。かと言って、仮りに焼き魚を添えたとすると、その瞬間それは“焼魚定食”

いつかドキドキがわたしを待っている

「うわあ、懐かしい」  高速道路のインターチェンジを降りて、一般道に入ったところで、わたしと夫は思わず声をそろえた。  すこし色あせた看板、ほどよい交通量の道路、趣のある建物。なにより、やわらかな町の雰囲気。  かつて暮らしていた町が、あまりにも、昔と変わっていない風貌でわたし達を迎えて入れてくれたものだから、嬉しさと懐かしさが込み上げた。  卒業制作展を見るために、数年ぶりにわたしと夫の母校のある地を訪れた。  四方を山に囲まれた、のどかで美しい土地だ。  出産を

愛をあらわせ

食べさせたいって、愛だなぁと思う。 食べることが好きでしょうがなくて、1日中食べ物のことばかり考えている。 母は毎朝5時に起きて6時過ぎに家を出て仕事へ向かう。そしてお昼頃帰ってくる。 去年の夏に帰省した時、わたしが到着するその日はいつもよりさらに30分も早く起きて、4年ぶりに一緒に食べるご飯の下準備をしてから仕事に向かったそう。おかげで久しぶりの実家に着いて早々のお昼ご飯は味しみしみの夏野菜マリネのお蕎麦が食べられた。あれはおいしかったなぁー。 どうして前夜に準備しないの

今も書くときに思い出す、国語の先生の教え。

尊敬する人のひとりに、中学時代にお世話になった国語の先生がいる。先生はおそらく当時40〜50代の女性。わたしは昔から書くことが好きで、その先生に文章表現やスピーチの極意を教わった。 先生は、結構スパルタだった。たとえばスピーチ大会の予選を通過したときは、「今の原稿のままだとまだ弱いから書き直そうね」と赤字がぎっしり入った原稿を返され、シャーペンで手のひらの横を黒くしながら何度も書き直した。「スピーチは全部覚えて。次の大会以降は本番もカンペはなし」と言われ、原稿用紙5枚分を頭

母とひたすら餃子を包む

子どもの頃は辛いことが多かった。 私は不器用でどんくさい子どもだったので、学校であまりいいことがなかった。 できないことがたくさんあって自己肯定感が下がる場面が多かった。 そして子どもとは残酷なものでそのような、できない子どものことをあげつらったり、からかったりする。 私もずいぶん、クラスメイトからバカにされて嫌な思いをした。 私が鉄棒ができない様子を真似されたり、私が描いた自画像が下手すぎてタコみたいと言われたり、リコーダーのテストでコソコソ笑われたりとかそんな経験をた

拝啓 佐野洋子サマ。私だって『死ぬ気まんまん』!

もう長生きしたいと思うのをやめた。 死ぬのはイヤだけど、ワケもなく長生きなんかしてどうする。 そんなことを思うと元気が出てきた。 どうしよう……長生きしそうだ。 いま、佐野洋子のエッセイ『死ぬ気まんまん』が浸みている。 あの絵本作家にしてエッセイストの佐野洋子、『100万回生きたねこ』の佐野洋子である。 私は密かに洋子サマと呼び、親近感100%の友人みたく思い馳せてる女流作家だ。72才(2010年)で亡くなられたけど、本を開けば元気な笑顔がよみがえる。 文句を垂れても情が

母と歩けば。

実家を出て二十数年が経つ。 気がつけば、家族で暮らした年月よりも一人暮らし歴のほうが長くなっている。 私もきょうだいも巣立ち、両親は六十代後半で地方へ移住し、今はそれぞれがそれぞれの場所で生きている。 そんな家族も、毎年お盆とお正月には全員で集まる。 両親の家に集合して、たくさんしゃべって、さんざん食べて飲んで、賑やかに過ごす数日間。その楽しい時間の中で私がいつも思うのは、「もう二度と、家族みんなで住むことはないんだな」ということ。 そりゃそうだ、きょうだいにはパートナーが