「さっきまで、あったのにね」
「あれ〜〜〜???」
枕カバーを持って、わたしは部屋の中をうろうろする。
そんなに、うろつけるほど広い部屋ではないのに、うろうろする。
「どうしたの?」
ゲームをしていた同居人が、律儀に尋ねてきてくれた。
「まくらがないの」
枕カバーをつけようと思ったら、まくらがない。
ベッドか、ソファーの上だと思ったのに。
「朝にはあったのにね」と、同居人が言う。
さっき、枕カバーを外して洗濯した。
そのときには、あったのに。
やっぱり、見つからない。
まくらなんて大きなものが、この小さな部屋でなくなるわけがない。
寝る前に探せばいいや、と思い「あとにする〜」と告げた。
「さっきまで、あったのにね」
同居人のつぶやきみたいな、やさしい声だけが部屋に残った。
ただ、それだけだったのに
その声は、わたしの部屋までついてきて、ただよった。
わたしの部屋。
雑多に、生活と思い出が散らばる部屋。
さっきまであったものも、
どうしてこんなにかんたんに、なくしちゃうんだろう。
まくらの話じゃなくて。
思い出とか、記憶とか、
わたしはモノも、結構捨てたりする。
雑多なこの部屋も、少しずつ、空気やモノが入れ替わってゆく。
また、出会えるものもある。
ずっと、一緒にいてくれるものもある。
その中には、ずっと一緒にいてはいけないものも、混ざっているかもしれない。
まだ、やさしい声が、この部屋にただよっている。
わたしが打ち捨てたものたちが、小さな叫びをあげているような
そんな気持ちにさせた。
なくしちゃうときは、本当に一瞬だ。
そんなことは、わかっている。
全部は持っていけない。
そして、全部を持っていくべきではないのだ。きっと。
わかっている。
だから、だいじょうぶ。
きちんと、自分で選んでゆく。
だいじょうぶ、
自分で選んで、わたしはこの部屋の空気を、すこやかに保っている。
だから、この記事を書き終えて
わたしは、部屋のドアを、開け放とうと思っている。
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