魔法のキャンディー
久し振りに、キャンディーを食べた。
友達からもらったお菓子セットに入っていたキャンディーは、りんごの味がした。
果物のりんごじゃなくて、お菓子のりんご味。
その、宝石みたいな赤い輝きに閉じ込められた、甘さ。
キャンディーは、わたしの魔法だったことを思い出す。
*
たぶん、虫の居所が、悪かったんだと思う。
細かいことはもう忘れてしまった、何年も前の話で
相手が言っていたことも真実で、わたしも悪い部分がきっとあったのだと思うけど
なんだか妙に、突っかかられる夜だったことを、いまでも覚えている。
いつもは煙草に火を付けて落ち着かせていた心だったけれど
煙草の火では、追いつけないほどのざわめきだった。
たまたま置いてあった、袋に入ったキャンディーを、ひとつずつ手に取る。
甘いのを少しだけ味わったあと、わたしはキャンディーを噛み砕く。
少しだけ目を閉じて、言い聞かせる。
それは、魔法にも呪いにも、祈りにも似ていた。
「キャンディーをひとつ、噛み砕くたびに、不快な感情も一緒に噛み砕こう」
*
キャンディーはわたしの、お守りだった。
甘さが欲しいときには、わたしの口を守ってくれて
キャンディーを食べているあいだは、他のお菓子を食べなくてすむ。
切なくなると噛み砕いて、
口に残る甘さが、わたしをやさしく包んでくれる。
キャンディーをひとつかみ
これからは部屋に置いておこう、と思っている。
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