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君とドーナツ

ドーナツにかぶりつきながら、思い出す。
わたしは、ドーナツが好きだった。

最初の記憶は、ミスタードーナツだ。高校生のとき。
高校生になって、ひとりで動き回れる場所や、学校帰りに寄れる場所が増えたんだと思う、
ひとりで勉強するときはドトールで、
友達とおしゃべりするときは、ミスタードーナツだった。
コーヒーはおかわりできたし、当時は1個100円くらいでドーナツが買えたし、「ミスドいこ」ってなるのは、当然だったと思う。
女子高生というのは、いつもおなか空いている。

大学生になって、サブウェイもフレッシュネスバーガーも覚えたけれど、ミスタードーナツを見かけると、嬉しくて駆け込んでいた。
ミスタードーナツは、あなたとおしゃべりする場所だった。

大学を出たあと、友達が住んでいる街の駅前にミスタードーナツがあって、「何かいる?」と訊かれると、「ミスド」と返ってくることも多かった。
「何もいらないよ」と言われても、とりあえずドーナツを買ってしまっていた。
友達もまた、ドーナツを愛していた。
おやつにもなるし、ごはんにもなるところが素晴らしかった。

わたしはもう、いつでもお腹が空いている女子高生でも、ラーメンを食べたあとに牛丼屋さんに流れ込む大学生の胃袋も失ってしまった。

おやつを買う機会もぐんと減って、
それなのにコンビニのおやつの数は増え続けて、悩ましい日々が続いている。

久し振りに友達の家で食べたミスタードーナツが美味しくて、おやつをドーナツに決めた夜があった。
半日くらい経って友達から、「セブンイレブンのドーナツが美味しかった」と写真付きでLINEが届いたときに、わたしは笑ってしまった。
写真のドーナツは、わたしが買ったドーナツと同じだった。

「わたしも買ったところだよ」
「君と久し振りに食べたドーナツが美味しくて、また食べたくなっちゃってさ」とLINEを返した。

「わたしもそう思って買っちゃったんだ」と返事が来て、また笑った。
わたしたちはいまもなお、単純で幸福な人生を歩んでいることに安堵した。

わたしは、冷蔵庫に放り込まれたフレンチクルーラーにかじりつく。
ぽろぽろとチョコレートを零しながら、溢れてくる思い出を拾い上げる。

おとなになったいまでも、ドーナツはちょっと特別な気がしている。



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