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特別な時間

「趣味が人間観察っていうひとは、表参道みたいなところにいくんだろうなって思う」と、目の前の彼女はまじめだった。
 対比として「町田じゃなくて」という、その違いについてもよくわかる。とある友人は、「町田の方が教材が売れる」と言っていたので、町にはそれぞれよさがあって、どちらかといえば表参道のほうがいろんなタイプの人がいる気がする。

 表参道には、わたしもいる。
 なぜだか縁のある街で、今ではTシャツにジーパンで歩けるし、そのままラフォーレだってヒルズだっていける。ラフォーレのアナスイにも、ヒルズのエヴァンにも、行かなくなったけれど、それでもわたしは表参道を歩く。
 人間観察をするわけではないけれど、この街を好ましく思う。
 そして目の前の彼女に、大学時代は町田で育ったことを伝えたい。東京の中身は、東京出身の人が少ないみたいに、表参道だって大半はわたしみたいのか、旅行者だ。だから、人間観察するには楽しいのかもしれない、とも思う。

 今日は、日差しの気持ちいいベンチに座っている。
 座っているだけで、何もしない。
 何もしないまま、時間が過ぎてゆく。
 贅沢な午後。ときおり、誰かの笑い声が聞こえて、その甲高さに含まれる幸福さが、全身を駆け巡る。
 わたしはひとりだけれど、誰かの日常にお邪魔して、生きていることを確かめてゆく……

 人間を観察しているわけでもなく、ぼんやりと日差しを飲み込んで、ときおり思い出したようにLINEの返事をして、アプリでポケモンを捕まえたりごはんをあげたりするくらいで、またすぐにすべてを忘れて何もしない。
 贅沢な午後のことだった。

 人間観察よりも、人の気配が好きなのかもしれない。
 表参道でも、ベンチでも、スターバックスでも
 誰かの暮らしに、ひっそりと隠れるように、自分も世界を作っているひとりで、世界は身近で、けれども遠く、そして少し無責任のような気がする。力強さと、心許なさと。

 それは、ひとりで部屋にいるのとも、友達といるのともぜんぜん違う、何やら愛しく勇敢な、特別な時間のような気がしている。



▼photo by yoko

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