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インスタントコーヒーの瓶

インスタントコーヒーの瓶を開けると、
十代の頃のわたしが、現れる。

インスタントコーヒーを日常的に飲んでいたのは、17,8歳から、20歳くらいまでのあいだだと思う。
コーヒーを飲めるようになったのがその年齢で、
20歳を越えたら、ペーパードリップに切り替えていた。

ゴールドブレンドの瓶を、わたしは何度も開けた。

高校生の時に友だちにもらった、ピンクのスヌーピーのマグカップは、他のものより少しだけ大きくて、よく使っていた。

台所が1階にある、実家の記憶が、ぶわりと込み上げてくる。

今となっては、「時々」になってしまったインスタントコーヒーの薄べったい味。
缶コーヒーとも違うし、この独特の味は、なんだろう。
薄べったい、と思う。
そしてなぜだか、懐かしい、と思う。

わたしはこれを、知っている。と思う。

でも、いつもそこまでだ。
それ以上何も出てこない。
あのときの記憶も、感傷も、どこかへ行ってしまった。
たくさんのことに、悩んだり、勝手に傷ついたりしていたはずなのに。

“いま”のわたしが、インスタントコーヒーの瓶を閉じる。

やっぱり何も思い出せなくて、
インスタントコーヒーの味は、薄べったいままだった。



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