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食器も洗えない夜もある

とりあえず起き上がって、お茶を淹れることにした。

お湯を沸かすついでに、コップを洗う。
これは、さっき洗うことができなかった食器たちだ。

食器も洗えない夜もある。

洗うべきは、一人分のお茶碗とお皿、お椀とコップくらいなのに、ジャアアアッと水を流して、ソファーに回れ右してしまう。
ダメだなぁ、と思う。
仕方ないなぁ、と思いながらも
食器も洗えない夜もあるのだ、と思う。

食器なんて、3分もあれば洗えるのに。
3分だけ、流しの前に立てないなんてこと、なかなか有り得ないわけだから
だっていまは夜で、今日はもう出掛けないし
どうせソファーに沈んでも、すぐ眠れるわけではない
それなのに
だめだなァ、と思う。
ダメな、夜がある。

お湯を沸かしながら、コップを洗う。

今日の場合は、茶碗とお椀はもう洗ってある。
たい焼きを温めていたついでに、洗い終えたものたち。
そして食後のたい焼きとコーヒーの、お皿とコップがシンクに佇んでいる。

さっきまでできたことが、急にできなくなる。
できないのか、やらないのか
どちらにせよそれは、情けない自分の代名詞のようで
情けなさに向き合うことが面倒になって、洗ってしまうことにする。
そう、お湯を沸かしているついでだし。
ついでっていうのは、なんだか勇ましくて好きだと思う。
たぶん、既にもう、別の理由に許されているからだと思う。
わたしはきっと、許されたいんだと思う。

食器も洗えない夜もある。
ピアスを外せない日も、化粧を落とせない日もある。
どれだけ汚いと言われようと、お風呂に入れない日なんてしょっちゅうだ。

それでもいつか、食器を洗う
ピアスを外す
化粧を落とす
風呂にも入る
できるときに、なんとかする。

今日は、コップを洗った。
ついでにパソコンの前に座って、ピアスは外した。
化粧は落とせるかわからない。
風呂はたぶん、明日の朝になる。

少しずつやる。
できることをやる。
いつかはやる。
人生は、「いつか」じゃなくて、今のほうがいいことが、たくさんある。
そっちのほうが健やかで、後悔がなくて、
「今じゃないほうがよかった」っていうのは、神様しか知らなくて

それでも
食器を洗えない夜がある。

ときどき、明るい明日とか、いつかは叶う夢じゃなくって
暗い夜にうんと寄り添って、ぜんぶから目を背けて
深夜とか明け方の静かなキッチンで
もう何が辛くて悲しかったのかもわからくなって
元気かどうかもわからなくて
ときには、何に落ち込んでいたか思い出せなくなったりしちゃって

そういう
眩しさに焼かれちゃうタイプの
親愛なるな迷子たちのために

わたしは今日もしずしずとお茶を淹れて
シンクを睨んだあとに諦める、まぬけな自分の後ろ姿を綴っている。



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