コゴトをオオゴト
なんだか、すぐオオゴトにしちゃうね。
後回しにするたびに、コトはどんどん大きく膨らんで
手を付けられなくなってしまう。
という、錯覚。
*
ありがとう、と思いながらぐっと唇を噛んだのは去年のことだった。
お見舞いに送られてきた入浴剤。
お風呂に入るのがいいよ、なんてやさしい言葉じゃなくて
「ずっとお風呂に浸かっていたい」っていうのが、彼女らしかった。
*
お風呂に入る習慣があまりない。
シャワーでよくないか?と思う。
「シャワーじゃあったまらなくない?」って言われるけど、
汗を流すんだから、べつによくない?
身体を痛めたときに、「お風呂が大事」って主治医に叱られて
頑張ってみた時期が、あったりするけれど。
お風呂掃除って面倒だし。
お風呂ってなんで、あんなすぐに汚れるんだろう。
バスタブなんて使ってないのに。
最近は病を言い訳に、お風呂掃除もサボリ気味。
なんて言いながら、もう半年。
やらなきゃね、面倒だね、なんて思いながら時間ばっかり経って。
汚れは積み重ねられてゆく。
増えるのは手間ばっかり。
*
掃除をしない期間が長くなれば汚れは増えるけれど、根本的にやることは変わらないのだから。
早くやればいいのに、どうしてこんなに面倒になっちゃうんだろう。
後回しにするたびに、コトはどんどん大きく膨らんで
手を付けられなくなってしまう。
そしてオオゴトになってしまう、という。
それは錯覚だと、気づいている。
*
今日はお風呂を掃除した。
「何もしないでいちにちが終わること」よりも、掃除をするほうがいいように思えたから。
水を張ったバスタブに洗剤を投げ込んで、追い焚きをして
排水口にも専用にアイツを流し込んで
スポンジでこすったり、細かいところは歯ブラシでこすって
最後に、バスタブに浸かった。
オレンジ色のバスタブは思ったより幸福で、
ただ、それだけの出来事だった。
*
ぜんぜん、たいしたことなかった。
むしろ、「磨けば落ちる汚れ」は愉快だとすら思えるのに。
むしろ、こんなにスッキリするのに。
動けなかった、半年間も。
なんだか、オオゴトにしちゃったね。
そうしていくつを、遠ざけたり、諦めたりするんだろう。
すべて拾えるようなまじめな生き方はしたくないけれど、
「できなかった」と思いながら首を絞めるような生き方も疲れてしまうから
次はどんなオオゴトをやっつけてくれようか。
なんて、
今日くらいは、そんなふうに考えてもいいかな。
※今日のBGM
(あのときは、お見舞いをありがとう。その気遣いに救われました)
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